脱獄を企てる囚人と刑事の物語 ~第二話~
第二話
葛西北署の刑事・霧島に一本の電話が掛かってきた。
「もしもし、霧島ですが。」
「ああ、霧島か。強行犯係の西村だ。
お前、二年前の高齢女性宅で起こった強盗殺人事件を覚えているか?」
「ああ、あの事件ですか。よく覚えていますよ。
男が高齢女性宅に侵入し、その女性を殺害後、現金300万円を奪った事件ですよね。
なんせ、犯人を逮捕して取り調べたのは俺ですから。
あいつ、逮捕される時からずっと、「俺はやってない!冤罪だ!」って訴えていましたよね。判決が出た後は、別人のように大人しくなりましたけど。
それが、どうかしたんですか?」
「それがな… 今になって出てきたんだよ、その事件の目撃者が。」
「目撃者?…どういうことです?」
霧島は戸惑いを隠せない。
あの事件は物証も多くあり、犯人の顔を見たという、有力な目撃証言もあった。
捜査線上に上がった三人の中で、目撃者が見た特徴に当てはまるのは一人しかおらず、犯行現場に残された凶器から指紋が検出され、それが一致したため、
容疑者として平沢という男を逮捕したのだ。
「いや…、その目撃者がな…、事件があった日の午後8時頃、平沢を別の場所…
桜町で見たっていうんだよ。」
死亡推定時刻は、午後6時から8時。
犯行現場の唐氏ヶ浜から桜町へは、車で急いでも一時間近くかかる。その証言が本当ならば、午後7時半まで仕事をした後、平沢がすぐに被害者宅に向かったという警察の見立ては、間違っていたことになる。
「その証言の信憑性は?誰の証言なんです?」
自然と、語気が強まる。
「それが、その証言をした目撃者はな…、当時まだ五歳だったそうだ。事件後すぐに海外に引っ越して、丁度二ヶ月前に日本へ戻ってきた。そうして、テレビを見ていると急に、「僕この人見たことあるよ、2年前に。」と自分の母親にその時のことを話し始めたそうだ。子供の話している日が、事件の日と同じだったため、念のため母親が警察に連絡をしてきたと聞いている。」
そういえば、平沢も幼い男の子が怪我をしていたから、手当てをしてあげたと証言していた。
しかし、そのような子供をいくら探しても見つからず、その証言は彼の虚偽だと判断したのだ。
霧島の脳裏におぞましい二文字がよぎる。
冤罪…
自分が担当した事件が、冤罪の可能性がある。
その可能性がほんの僅かでも出てきて、霧島は居ても立ってもいられなくなった。
「すぐに、その子の話を聞きに行きます。住所は?」
「ちょっと待て…、蒲池6丁目4の5、グリーンハイツの602号室だ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
電話を切るとすぐに上着を掴み取り、走り書きしたメモの住所へと急ぐのだった。
<次回へ続く>