脱獄を企てる囚人と刑事の物語 ~第一話~
第一章
「215番、手紙が届いてるぞ。」
看守が囚人に、一通の手紙を渡す。
囚人の名は、平沢。
強盗殺人の罪で逮捕・起訴され、裁判で無期懲役の判決を受けた。現在、28歳だ。
彼は入所してからまだ2年で、どれほどの模範囚だとしても、あと30年は刑務所から出られない。
運良く出所できても、その頃には…もう還暦だ。
もっとも、出所できる可能性は限りなく低い。
彼と同じ無期懲役刑を受けたもので、この刑務所から出所したのは、ここ20年でたった一人しかいないのだ。
その受刑者も35年服役して、ようやく出られたそうだ。
つまり、彼はこのままいけば死ぬまでここにいることになるだろう。
手紙には、こう書かれていた。
【あなたのような人でも、唯一の兄弟なので報告しておきます。
かねてからお付き合いしていた方と、結婚することになりました。
結婚式は来月に挙げます。】
この手紙の送り主は、平沢の妹の理子である。
刑務所に入ってからは互いに一切連絡を取っておらず、向こうからの手紙も今回が初めてだった。
以前の二人はそこそこ仲が良く、お互いに成人して働き始めた後もよく会って、相談に乗ったりしていた。
しかし、彼の刑が確定した後は、ぱったりと何の連絡も寄越さなくなり、
久しぶりに連絡が来たかと思えば、まるで赤の他人に送るような文面だったのである。
平沢は手紙を読んだ後、無性に今の自分が腹立たしくなった。
手紙を破り捨て、ゴミ箱の中に叩き付ける。
そうして、彼は独房の固い床に横になり、灰色の天井を見上げた。
<次回に続く>