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眠りに導く癒しの短編集 〜おやすみシリーズ〜  作者: ビオラン
おやすみなさい。いい夢を
1/1

側にいるだけで安心するんだ

おやすみ前のリラックスタイムをあなたに。

ゆっくりと朗読するイメージでお読みください。

 私は今、夜の広い広い野原で横になっています。


 特に何かがあった訳では無いけれども、でも、何故か眠れません。緊張や不安、色んな感情がぐるぐると頭の中を掻き乱していきます。


 だから、こんな時は、ふと野原に足を運ぶようにしているのです。


 今、私の目の前には、満天の星々。そのどれもがキラキラと瞬いています。

 そして、わずかに草の形が分かる程度の、柔らかな月の光。星と月が、お互いを消さないように優しい光を放っています。


 私は何とも言えない心地よさに、そっと目を閉じました。


 瞼の中の真っ暗な世界では、耳が主人公だと言わんばかりに、音がしっかりと聞こえてきます。


 少し、耳をすませてみます。


 自分が息をする音、風の音、草がサワサワと擦れる音。そんな何気ない音が、とても心地良く聞こえてきます。


 しばらくすると、身体の様々な所の感覚が研ぎ澄まされてきたようです。


 身体を乗せている大地からは、包み込むような草の柔らかさが伝わってきます。袖からはみ出た手には、草の一本一本の感覚が伝わってきました。


 鼻からは息をするたびに、ほのかに草の香りがします。さらに花の香りもどこからか漂ってきます。


 風がそよそよと吹いて、風に触れた頬や額はとても涼しく感じています。

 一方で、土の暖かさを感じて、身体はポカポカとしてきました。



 心地良さと、自然の安心感に身を委ねていると、ゆっくりと身体の力が抜けてきました。


 手も足も、力が抜けて土と一体化しているような、そんな感覚を覚えます。


 私はボーッと、ただそれらの感覚を受け入れることにしました。



 そこに、頭のてっぺんの方向から サクサク と足音が聞こえてしました。


 ……サクサク サク。


 足音はゆっくりと近づいてきます。

 私の横までくると、ピタリ、と止みました。


 すると、足音の代わりに声が聞こえてきます。


「こんばんは、良い夜ですね」


 私が目を開けようとすると、声の主はこう言いました。


「あぁ、どうかそのままで。目を開けず寝ていてくださいな。なに、邪魔するつもりはないんです」


 私は少し不思議に思いながらも言われた通り、目を閉じたまま、声の主に問いました。


「あなたは?」


「私は猫です。どうしても眠れなくて、散歩をしていたんですよ」


「眠れないのですか?」


「……どうも寂しくてね。いつもはちゃぁんと1人で寝ているのに、急に周りが静かに感じまして。いつも通りに過ごしているのにおかしいですよね。少しソワソワとしてしまって……


 落ち着かないから、ついに散歩に出ることにしたんです。


 そうしたらあなたがこんなところで寝転がってるじゃあありませんか。ここは、一つ、私もご一緒させてもらおうと思いまして」

 

 猫は少し照れ臭そうに、そう言いました。

 どうやら一緒に寝転がっていたいようです。


 私は右の手で、地面をポンポンと叩きながらこう返事しました。


「それはそれは。勿論良いですよ。さぁこちらにどうぞ」


「ありがたい。では失礼して……」


 猫はサクサクと足音をたてながら、ゆっくりと私の右側に移動します。

 サクサク サクサク サクサク ドサリ。

 横になる音が聞こえてきました。


 しばらくすると、自分の息に重ねて、猫のスウスウという息が聞こえてきました。


 不思議とうるさくはありませんでした。

 自分や猫の呼吸する音、風や草の音それらをじっと静かに聞いているだけでどこか安心感を感じます。


 私はまた、ゆっくり感覚を研ぎ澄ませます。


 すると、また頭のてっぺんの方向から、ザクザクと別の足音が聞こえてきました。


 ……ザクザク ザク。


 足音はゆっくりと近づいてきます。

 私の横までくると、ピタリ、と止みました。


 すると、また足音の代わりに声が聞こえてきました。


「こんばんは」


 私が目を開けようとすると、声の主はこう言いました。

「あぁ、目は閉じたままで大丈夫ですよ。別に邪魔するつもりはないのです」


 私はまた少し不思議に思いながら、今回も言われた通り、目を閉じたままにしました。そして声の主に問いました。


「あなたは?」


「私は犬です。どうしても眠れなくて、散歩をしていたんですよ」


「眠れないのですか?」


「……どうも怖くて。何に恐れているのかは分からないんです。でもなんだか不安で。ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう……なんて、少しずつ不安が膨らんで、結局何が怖いのか分からなくなって。

 不安に押し潰されそうになるんです。


 落ち着かないから、ついに散歩に出てみたのです。


 すると、あなたがこんなところで寝転がっているのを見かけました。ここは、一つ、私もご一緒させてもらおうと思ったのです」


 犬は恥ずかしそうに、そう言いました。

 どうやら犬も一緒に寝転がりたいようです。


 私は左の手で、地面をポンポンと叩きながらこう返事しました。


「それはそれは。勿論良いですよ。さぁこちらにどうぞ」


「ありがたい。では失礼して……」


 犬はザクザクと足音をたてながら、ゆっくりと私の右側に移動します。

 ザクザク ザクザク ザクザク ドサリ。

 横になる音が聞こえてきました。

 

 しばらくすると、自分の息、そして猫の息に重ねて、犬のスースーという息が聞こえてきました。


 今回も不思議とうるさくはありません。


 そのまま、2匹の自然な呼吸音と共に、ゆったりとした時間が過ぎます。

 2匹の動物達からは、次第に深い深い息をしている音が聞こえてきました。


 何もしていないのに、2匹は安心して眠りにつき始めているようです。


 私は何もしていないのに。おかしなものですね。

 そんなことを考えると、なんだか不思議と口角が上がってきます。

 さらに、心がホッコリとしてきました。


 きっと2匹の動物達は、1人ではないという安心感が欲しかったのでしょう。


 別に何もしないけれど、側にいる。ただそれだけなのに安心してくるのです。


 私も2匹の息の音に耳を傾け、そっと2匹の存在を感じます。

 別に何もしないけど、横にいる動物達が「一緒にいるよ」と側で寄り添ってくれているように感じるのです。


 右側には猫、左には犬。何をする訳でもなく、ただそこにいるだけ。2匹の息の音が聞こえるだけ。


 自分の息の音、犬と猫の息の音、風の音、草の音、どれも音が聞こえるだけ。


 でもどこか、それが聞こえるだけでスーッと肩の力が抜けていくのを感じ始めました。


 1人で抱えていた、モヤモヤとした感情は、吐き出す息の音と共に消えていきます。

 どうしようもない寂しさや不安が出てきては、消える。ぐるぐるとした思考も段々と無くなっていきます。


 スウスウ、ソヨソヨ、スースー、サワサワ。


 ただ、周りの音だけが聞こえてきます。


 自然と眠くなってきました。


 ウトウト ウトウト。


 色んな気持ちは、心地良い眠りとなって消えていきました。

(本当は目を閉じて、ゆっくりとした音声で聞いていたいです。)

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― 新着の感想 ―
[一言] 配信アプリ内で朗読させて頂きたいのですが、お借りしても宜しいでしょうか?
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