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世界最速のレベルアップ ~無能スキル【ダンジョン内転移】が覚醒した結果、俺だけダンジョンのルールに縛られず最強になった~  作者: 八又ナガト
第四章 駆け上がる者

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217 弱者であるということ②

 ジオ・イクシードと向かい合う凛は、高速で思考を回しながら敵の分析を進めていた。


 現時点で判明しているジオ・イクシードの武器は、三つの頭による臨機応変な動きと、凛の一撃を防いでみせた強力な魔力障壁。

 他にも隠し玉は幾つかあるだろう。

 いずれにせよ、厄介な相手に違いない。


 そこまでの分析を終えた後、凛は不敵な笑みを浮かべた。


「つまるところ、いつも通りってわけだ」


 激闘を覚悟しつつ、凛は両手に持つ武器を確認する。

 右手には無名剣(ネームレス)、左手には吸血剣(ブラッディ)という、これまでにも幾度と繰り返してきた長剣と短剣による変則二刀流。

 さらにアイテムボックスにはまだ魔奪剣(グリード)も残っている。

 ありとあらゆる手段を用い、この強敵を打ち破ってみせると決意する。


「いくぞ」


 そしてとうとう、凛は力強く地面を蹴り、目の前に君臨するジオ・イクシード目掛けて駆け出した。

 しかし、それをただ見過ごしてくれるほど敵も甘くない。


『ガルルゥゥゥゥゥ!』


 ジオ・イクシードの三つの頭は獰猛な牙を剥き出しにし、三方向から凛を取り囲むように襲い掛かってくる。

 その一つ一つが、間違いなく凛を殺せるだけの破壊力を有しているだろう。

 だが――


瞬間転移(タイム・ゼロ)


 その程度は凛も初めから想定済みだった。

 瞬時に後方へ転移した凛は、無防備な背中に斬りかかろうと――


「ルァァァァ!!!」

「――!? 瞬間転移(タイム・ゼロ)!」


 ――刹那、殺気を感じた凛は反射的に転移でその場から距離を置く。


 直後、数瞬前まで凛がいた場所をジオ・イクシードの太い尻尾が薙ぎ払った。

 ビュン、と大気を切り裂く音が木霊する。

 その光景を見た凛はわずかに目を細めた。


「……今のは少し危なかったな」


 一撃でやられることはなかっただろうが、まともに喰らえば纏壁(てんへき)くらいは破壊されていただろう。

 いくら凛のレベルが上がり、格上にも打ち勝ってきたとはいえ、絶対的なパワーの差は存在するのだ。


 そして何より厄介なのが、力以上に今の反応速度。

 明らかにどこへ転移するか読まれていた。

 ケルベロス戦の時にも実感した、転移発動時に生じる魔力の淀みを感じ取っているのだろう。


 活路を失った?

 否、この程度はいつものこと。

 こちらもそれに合わせた戦い方をしてやればいい。


「……ふう」


 そう決意した凛はゆっくりと息を吐き、覚悟を決める。

 ここから始まるのは、凛にとっての原点にして最も得意とする戦い。

 すなわち、ヒット&アウェイに徹して敵を翻弄する――()()()()()()だ。


「――――瞬間転移(タイム・ゼロ)


 そして今。

 瞬間転移(回避手段)吸血剣(回復手段)を得た凛が行う弱者の戦い方は、かつてのそれとは比べ物にならないほどの効果を有していた。


「ガルルゥ!?!?!?」


 無限に転移を繰り返す凛の攻撃に、ジオ・イクシードは対応しきれない。

 斬撃を浴びせていく中で分かったのだが、魔力障壁はどうやらその度に発動しているようで、纏壁のように常に全身を覆うようなものではないらしい。

 そのためジオ・イクシードはただ、死角から襲い掛かってくる凛の攻撃を浴び続けることしかできなかった。


 けれど。

 ただそれだけで最後まで倒しきれるほど、Sランク魔物は甘くなかった。


 痺れを切らしたジオ・イクシードは突然動きを止めたかと思えば、天井を仰ぎ一斉に雄叫びを上げる。



『グルゥァァァアアアアアア!!!』



 咆哮。

 重なる怒声は共鳴を起こし、大広間を――否、それをも超えてダンジョン全体を大きく激震させる。

 ここからが本番だと、そう伝えているかのようだった。


 ふとその時、ジオ・イクシードの6つの瞳がじっと凛を睨みつける。


(何か、くる――!)


『ガルァァァアアアアア!』


 凛が警戒した直後だった。

 再びの咆哮。だが今回は威嚇ではない。

 雄叫びに応じるようにして、巨大な水の塊が三つの口から放たれた。


「ここで魔法か。だが――」


 凛目掛けて一直線に放たれたため、軌道を読むのは簡単。

 転移ですぐさま回避する凛だったが、直後、驚愕に目を開くこととなった。


 壁にぶつかり霧散するはずだった三つの塊。

 それらが突如として、進路方向を変えて凛を襲ってきたからだ。


「――――――!」


 自動追尾。

 その単語が凛の脳裏を過る。

 この様子だといくら躱し続けたところで、無限に追ってくるだろう。


 なら――


留壁(りゅうへき)!」


 指定箇所に固定された魔力の壁を生み出す、纏壁の派生スキル留壁を発動。

 回避は諦め、真正面から受けきる方針へとシフトする。

 しかし、


「ガルゥ!」「バウッ!」「グルァ!」

「――ッ」


 三つの頭がそれぞれ咆哮した直後、なんと水の塊は上下左右にへと分かれ、留壁をかいくぐるようにして凛に襲い掛かってきた。

 それを見た凛は方針を戻し、再びの連続転移で回避に徹する。


(これはまさか……自動追尾じゃなく手動操作? 一度放った魔法を自由自在に操れるなんて、脅威にもほどがあるが……)


 それでも凛に戸惑いはなかった。

 似たようなことができる魔物とつい先日、戦った経験があったからだ。

 リヴァイアサン。ヤツもまた海の水を操り、ありとあらゆる手段で攻撃を仕掛けてきた。


(やっぱり間違いない。ケルベロスといいリヴァイアサンといい、ジオ・イクシードは幾つもの魔物の特性を有している)


 なぜよりにもよって、これまで凛が戦ってきた個体ばかりなのかは不明だが……

 いずれにせよ、それならそれでやりようはある。


 リヴァイアサンとの戦闘時、ヤツが放つ水は海から汲み上げたものだったため()()は通用しなかったが――魔法から生み出されているなら話は別だ。


「来い、魔奪剣(グリード)


 吸血剣と魔奪剣を武器交換(スイッチ)した凛は、再び真正面から水の塊を迎え撃つ。


「全てを喰らえ」

『――――ッッッ!?!?!?』


 そしてそのまま、三つの塊全てを喰らう。

 MPが一気に5割近く持っていかれたが関係ない。

 凛はそのままジオ・イクシードの目前にまで迫り、唱えた。


「――解放(リリース)

『ガルゥッ!?』


 解き放たれた水の塊が、高速でジオ・イクシードに迫る。

 水を操る能力を持っているとはいえ、この至近距離からの対応は不可能。

 三つの塊を同時に浴びたジオ・イクシードは一瞬、強烈な痛みにより警戒の色を薄めた。

 

 そしてそのときにはもう――凛はジオ・イクシードの後方にへと移動し、無名剣(ネームレス)を振りかぶっていた。


「はぁぁぁあああああ!」


 裂帛の気合いとともに、渾身の一振りが放たれる。

 今度は魔力障壁の展開も間に合わず、白銀の刃がジオ・イクシードの背中を大きく斬り裂いた。


『ガァァァアアアアアアアア!』


 痛みに耐え切れず悲鳴を上げるジオ・イクシード。

 この機を逃すことなく、凛は猛攻を仕掛け始める。



 徐々に、徐々に、凛の刃がジオ・イクシードにダメージを刻み込んでいくのだった――――



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