172 ギルド加入
予想に反して、あっさり認めたクレアに対し、俺は思わずつっこむ。
「いやいや、待て、クレア。ちょっと軽すぎないか? 絶対に返答を渋られるかと思ってたんだが」
「以前までの状況ならそうしたかもしれませんが……天音さんには既に知られているでしょうし、誤魔化す必要はないかと思いまして」
「そりゃまあ、確信があった上で訊いたことではあるけど……」
それにしたって、ここまで素直に頷かれるとは思っていなかった。
正直、かなり拍子抜けといったところだ。
ただ――――
「おかげで、クレアが常軌を逸した力を持っている理由は分かった。スパンの影響がないんだったらレベルが上げ放題だし、成長速度は普通と比較にならないよな」
俺と同じ立場の人間がいることに驚く半面、納得している自分もいる。
そんな事情でもなければ、クレアの強さには説明がつかないからだ。
世界で自分だけが特別な存在になれたと思い込んでいたことを恥ずかしく思っていると、クレアは少し困ったような笑みを浮かべた。
「天音さんの予想は半分正解で、半分不正解です」
「……どういうことだ?」
「そうですね、なんと答えるべきでしょうか……」
手を顎にあて、考え込む素振りを見せるクレア。
それを見た俺は慌てて言う。
「言いたくないんなら、無理に答えてくれる必要はないぞ。状況が状況だから俺は話したが、それをそっちにまで強要しようとは思わない」
「いえ、決して教えたくない訳ではないんです。ただ、口で説明しても理解していただけるかどうか……そうですね、天音さんがダンジョンに潜れるほど体調が回復した時、お答えするのでもよろしいでしょうか?」
「俺は構わないけど……なんでそのタイミングなんだ?」
「一つは先ほども言ったように、直接見ていただいた方が理解しやすいからです。そしてもう一つは、天音さんが自身の療養に専念してもらうようにするためです。放っておくと、無理してダンジョンに行ってしまいそうな気がして」
「うっ」
確かに、少しくらいなら無理をしてでも早くダンジョンに挑戦したいとは思っていたが、釘を刺されてしまった。
そこまで言われてしまえば、療養に専念するしかない。
そんなことを考えている俺の前で、クレアは最後に小さく呟いた。
「それに……きっと、私と天音さんは違いますから。結局私は、今もそのルールに縛られたまま――」
「クレア?」
「――いえ、なんでもありません。ですから天音さんは、ひとまず体調を元に戻すことだけを考えてくださいね」
「……ああ、わかったよ」
クレアが浮かべた、少しだけ物憂げな表情に目がいく。
するとその時、ノックの音が部屋の中に飛び込んできた。
「入ってくれ」
「失礼します」
ギルドマスターが許可すると同時に中に入ってきたのは、黒髪のポニーテールが特徴的な少女――俺の妹、華だった
制服なのは、学校帰りだからだろう。
華は俺を見つけると、パッと顔を輝かせる。
「お兄ちゃん、もう来てたんだね。体は平気なの?」
「おかげさまでな」
「そっか、ならよかった」
そう答えると、華は安堵したように微笑んでいた。
自分を心配してくれる家族がいるというのはいいもんだな、と改めて実感する。
華がソファーに腰掛けたタイミングで、ギルドマスターは続ける。
「それじゃ、再度確認だ。天音も天音妹も、うちのギルドに加入する意思があるってことでよかったんだよな?」
「「はい」」
華の持つユニークスキル【技能模倣】については事前に伝えていた。
予想通り、その強力なユニークスキルにギルドマスターは興味を持ってくれ、喜んで加入を受け入れてくれた。
とはいえ、もともと俺が加入するのなら華も無条件で受け入れるつもりだったらしいが、想定を遥かに上回る結果になってラッキーという感じみたいだが。
何はともあれ、そんな風にして、俺と華は宵月ギルドに加入したのだった。