170 ゆったりとした時間
少し時間が経ってしまいましたが、第三章終了時に感想をくれた方々、本当にありがとうございました。
多くの方から「面白かった」という感想をいただき、頑張って書いてよかったなと心から思いました。
それから新たに四件のレビューを頂くこともできました。
本当にありがとうございます。これからも面白い物語を書いていくので、よろしくお願いいたします!
「……クレア」
「はい」
クレアは柔らかい笑みを浮かべ、病室に置かれた椅子に腰かける。
そんな彼女に向かって、俺は先ほどの問いの答えを返した。
「体調は悪くないな。それどころかむしろ、ここ数日で体が鈍ってるし、今すぐダンジョンに向かいたいくらいだ」
「申し訳ありませんが、それは許可できません。天音さんの場合、外傷が治ったとしても内部の魔力機能がまだほとんど回復していませんから」
「……そういえば、そうだったな」
カイン戦において、氷葬剣を使用し、限界を超えた魔力供給を受け続けたことによって俺の体はボロボロになっていた。
その傷は医療や治癒魔法では治すことができず、基本的には自然回復を待つしかないらしい。
問題はその期間なんだが……。
「完全に回復するまでに、どれくらい時間が必要なんだっけ?」
「そうですね。天音さんの状況から考えるに、少なくとも一か月は必要でしょう」
「長いな……ちなみに無理やりダンジョンを攻略しようとしたら――」
「体中に激痛が走り、程度によっては気絶すると思われます」
「……そのレベルか」
一か月。
それだけの時間があれば、今の俺ならば万単位でのレベルアップが可能となる。
その機会を逃すことになるのは、正直かなり痛い。
けどまあ、氷葬剣を使わなかったら華たちを守れなかったわけだし、その選択自体に後悔はないんだけどな。
そんなことを思っていると、クレアは言う。
「とはいえ、その点については少し考えがあるので、そこまでの期間は要さないかもしれません」
「考え?」
「まだ相手の許可が取れていないので詳細は話せませんが、悪い結果にはならないと思います。ですので、しばらくはこのまま我慢していてくださいね」
「……ああ、わかった」
文句を言ってどうこうなる問題でもないので、こくりと頷く。
クレアはそんな俺を見て、なぜかくすりと笑った後、話を変える。
「それから、華さんのことですが」
「華がどうかしたのか?」
「天音さんが入院中に、一応ギルドについての説明はしておきました。あなたが起きるまで判断はできないとのことでしたが、どうやら本人としては加入の意向を固めているようです」
「そっか。その辺りについても話し合わなくちゃいけなかったな」
華は毎日見舞いに来てくれているが、零や由衣を伴って現れることがほとんどだったため、その辺りの話はまだできていなかった。
どこかでちゃんと時間を取るべきだろう。
「何はともあれ、込み入った話はこの辺りで。せっかくなので、果物を剥いていきますね」
そう言って、クレアは見舞いの品として置かれていたリンゴを剥いていく。
形はもちろんウルフん。どれだけ好きなんだ。
というか。
「これだけの用件のためにわざわざ来てくれたのか。悪いな」
華のギルド加入については、助かったといえば助かったが、退院してからでも決して遅くはない話題だった。
それをわざわざ伝えに来てくれたことをありがたく思っていると、なぜかクレアは俺にジトーっとした目を向けてくる。
……えーっと。
「どうしたんだ? クレア」
「……いえ。今伝えたことについてはあくまでついでで、一番の目的は天音さんのお見舞いだったのに、などとは決して思っていません」
「うっ」
そ、そうだったのか。それは悪いことをしてしまった。
というか、クレアはこんな表情もできるのか。
状況が状況であるにもかかわらず、俺はついそんなことを思ってしまった。
「そっか。それは悪かった……いや、違うな。来てくれてありがとう、クレア」
「はい。りんごが剥けましたよ」
すぐに調子を取り戻し、ウルフんりんごを差し出してくるクレア。
それから俺たちはしばらく、ゆったりとした時間を過ごすのだった。




