168 ひざ枕 ②
「わたしは一つ、文句がある」
「へ?」
入院中、見舞いにやってきたその少女から発せられた言葉に、俺は首を傾げた。
俺の目の前にいる少女の名は黒崎 零。
零はなぜか不満げに頬を膨らませていた。
つつきたい。
って、そうじゃなく。
「いったい何の話だ?」
話の流れが見えなかったのでそう尋ねると、零は「むっ」と声をもらす。
「今回、わたしはすごく頑張った」
「そうだな。零がいてくれたから、カインを倒すことができた」
「なのに、勝利の喜びを分かち合おうと思って駆け寄ろうとしたら先に一人で地上に戻るし、わたしたちが帰還した時には、あろうことか凛はクレアのひざの上で気持ちよさそうに寝ていた。これは断じて許されることではない」
「そんな風に思ってたのか。それは悪かっ――待て。俺、クレアにひざ枕されてたのか?」
「加えて言うと、頭も撫でられていた」
「なっ!?」
何それ初耳なんだけど。もっと詳しく頼む。
「話を戻す。本来なら、わたしが凛からご褒美をもらってしかるべき」
「……なんだか腑に落ちないが、零に助けてもらったのは確かだからな。俺としては別に構わないんだけど、零は何か欲しいものでもあるのか?」
「欲しいのは物じゃない……えい」
「ちょっ、零!?」
突然、俺が座る一人用のベッドに乗り込んでくる零。
彼女はそこで正座をすると、ポンポンと自分の太ももを叩く。
「さあ、カモン」
「零さん?」
零の意図が読めず……いや、正確には分かっているのだが、確認を込めて名前を呼ぶ。無意識のうちにさん付けで。
すると零は、再び不満げに頬を大きく膨らませる。
つつきたい。
「クレアはよくて、わたしにされるのはダメ?」
「いや、別にそういうわけじゃ。そもそもクレアにされた時の記憶もないし――」
「うるさい。えいっ」
「うおっ」
強引に体を掴まれたかと思えば、俺の頭が彼女の太ももの上に運ばれる。
スカート越しとはいえ、太ももの感触が後頭部に伝わってきて、なんとも言えない気分になる。
恥ずかしさから目を背けるためにも、俺は頭に浮かんだ疑問を口にする。
「なあ、そっちがひざ枕をする側になってるけど……これ、俺から零へのご褒美になってるのか?」
「ちょーなってる」
「超なってるのかー」
乙女心はよく分からない。
クレアが俺をひざ枕するところを見て、きっと変な対抗心でも生まれたんだろうな。うん。
などと考えていると、俺の頭に何かが置かれた。
考えるまでもなく零の手だ。
彼女の滑らかな白い肌が、俺の頭を撫でる。
「……零?」
「ふんふふ~ん」
意図を尋ねようと思うも、零は目を閉じたまま、楽しそうに鼻歌を歌っている。
これを止めるのは、なんとも忍びない。
(……まあ、いいか。決して嫌なわけじゃないし)
というか、これはむしろ――――。
それ以上、深く考えるのはやめ、俺は零の鼻歌に耳を傾ける。
そうして俺たちは、そのままゆったりとした時間を過ごすのだった。
……ちなみにその途中、華と由衣が扉の隙間から俺たちの様子を覗いていて色々と大変な目に遭ったんだが……それについてはまた別の機会で。
大変お待たせいたしました。
『第四章 駆け上がる者』開幕です。




