第66話:解析不能らしいんだが
◇
それから二日後。
物資の準備が整い、午後から出発できることとなった。
その間、少し空白の時間ができてしまった。
コンコンコン。
「ご報告に参りました」
執務室の扉を叩く音がする。
「入ってくれ」
「失礼いたします!」
若手の役人が袋を手に下げて持ってきた。
「こちら、ユーキ様に解析せよと命じられていた書物なのですが……」
「もうできたのか?」
これだけの分量を二日でこなすとは、なかなかの能力だ。
大したものだ——と思ったのだが。
「いえ、その逆でございます。……さっぱり手掛かりが掴めず、これ以上時間を欠けても不可能だろうということで……」
「……そんなに難しいのか」
無意識のうちに、本を睨んでしまう。
「も、申し訳ございません!」
「いや、できないならできないと早く報告してくれた方が助かる。ご苦労だった。他に連絡はあるか?」
「いえ、私からは以上となります。これからお出になるということで、報告はなるべく帰還されてからまとめての方がよろしいかと考えたのですが」
「そういうことだったか。確かにそうしてくれた方が助かる」
「それでは、失礼いたしました!」
役人は部屋を去っていった。
「上手くいかなかったんですね……」
「まあ、そういうこともあるだろうな。手掛かりが少なすぎるのも分かる」
俺はパラパラと本をめくりながら、どうしようかと悩んでいた。
あれが古代文明の遺跡なのだとすれば、聖剣の正体を暴いたり、過去の魔王と勇者との戦いからこれからの未来を予測することができるかと期待していたのだが。
「ユーキが自分でやっても解析って難しいものなの?」
「確かに雰囲気的にはなんとなく理解できるような気もするんだが、ちょっとずつやってもこの分量じゃなあ……」
「ちょっとでも分かるって凄すぎませんか!?」
「そうか? 日本語と英語と中国語を混ぜたようなイメージだと感じたくらいのもんなんだが」
「ニホンゴ……エイゴ……チュウゴクゴ?」
「ユーキの故郷の言葉でしょうか?」
二人は意味を掴めず、首を傾げた。
「あーすまない。まあ、そんなところだ」
日本語は母国語だから当然に、英語は受験勉強でそれなりに、中国語は大学の単位のためにそこそこ勉強してきた。
言語のパターンを理解することはできている。……まさか、あんなのが役立つこともあるもんだな。
俺は、一ページを開きながら、気づいたことをメモしていく。
ちょっとした特徴でも手掛かりになるかもしれない。暗号を解くように、重複した文字には特に注意しながら読み進めた。
「ユーキが書いている文字、見たことないです……!」
「ん? 日本語のことか」
大陸共通語を覚えたとはいえ、自分が読めればいい程度のものなら普通に日本語で書いた方が楽なのでそうしている。まあ、この世界には多分存在しない言葉だろうから、二人がこういう反応をするのも当然というべきか。
「いや、待てよ——?」
この本に書かれている文字は、古代の大陸共通語だったりするのか?
もともと日本語しかできなかった俺が、異世界の言葉を使えるようになったきっかけ。それは、スキルのおかげだった。
スキルは、キャラクターレベルが上がっていることを条件として、SPを消費することでレベルアップすることができたはずだ。
もしかして、『大陸共通語Lv1』をレベルアップすれば、ちょっとくらい解析に役立つんじゃないか……?
どうせSPは余っているので、試してみる。
一気に限界値——Lv3までレベルアップする。
その結果——
「読める……読めるぞ!」
「え、どういうことですか!?」
「ええええ!?」
スキルのレベルが上がったことで、『なんとなく読めそうな気がする』から『難なく読めるようになる』ことができた。
そして、本を読み進める中で、重大なことがわかった。
「一冊を除いて、全部魔法書だな」
「魔法書……? それってなんですか?」
「俺も初めて知った言葉だ。説明によれば、この本を読むことで魔法を習得することができる。適性があればという条件は付くみたいだが」
ゲームとかでよく出てくるあの魔法書と同じようなイメージで良さそうだが、ちょっと違うところもある。
「魔法を使用するには、魔法書を所持している必要があります——とのことらしいから、ちょっと癖がありそうだな」