第46話:挨拶をするのは常識だと思ってたんだが
「魔族って、あの魔族ですか……?」
「そうだ。ツノが生えてて白目が黒いアレだな」
なんとも雑な形容の仕方だなと思う。しかしこれが一番わかりやすい。
アレリアは直接見ているので、一発で想像できたようだ。
「知っているとは思うけれど……魔族はかなり強いわよ。国を滅ぼすほどの強さって聞いたことあるわ。この前はたまたま人外の強さを持ったある冒険者が倒したみたいだけど、それも本当かどうか……」
「魔族っていうほど強くないぞ。勇者くらいだ」
「勇者くらい強ければ十分よ! ユーキは何を言ってるの!? って、もしかして王都に出た魔族を倒したのって——」
「俺だぞ。実際戦ってみたが弱かった。あの魔族がたまたま弱かった可能性もあるけどな」
「…………」
茫然と俺を見つめ、はぁと嘆息するアイナ。
何か気に障ったかな?
「ユーキが一緒なら大丈夫そうね。……それで、今は魔族に狙われているの?」
「いや、近い場所と言っても俺たちが狙われてるわけじゃなさそうだ。あっちの方に集まってる」
俺は、山の方を指差した。
「もしかして……エルフの里に!?」
「……みたいだな。どういう状況なのかわからないが——あまり良い状況じゃないと思う」
「急がないと!」
「待てって。エルフの里のほうに集まってはいるが、この近くに一体もいないわけじゃない。そっちを片付けつつ様子を確認してから向かおう。前に戦った魔族は弱かったが、今回も弱いとは限らないからな」
「……そうね。私、どうかしていたわ」
「アイナは悪くない。仲間が大変な目に遭っているかもしれないんだから焦らない方がどうかしてる。でも、そんな時こそ遠回りになっても焦らず確実に勝ちに行く」
ここで焦って厄介なことになれば、最悪俺たちが死ぬだけじゃなくエルフたちや、ここから300キロしか離れていない王都がどうなるのかもわかったもんじゃない。
「多分見張りの魔族が森に入ってすぐのところに一匹いる。なるべく気配を消して近づこうと思う。ついてきてくれ」
「わかったわ」
「わかりました!」
「わかったー」
なんかいつの間にかスイもパーティメンバーみたいになってないか?
まあ似たようなもんか。
念のため、全員に『神の加護』を付与しておき、消音効果のある結界魔法を展開しながら進んでいく。
馬鹿正直に開かれた道から向かうようなことはしない。
道なき道を歩いて森をサイドカットして近づく作戦だ。
「あれだな。念のためステータスを確認しておこう。——よし、問題ない。雑魚だな」
驚くべきことに、前に王都で暴れた魔族よりも弱い。
見張りってかなり重要な役目なんだから、もうちょっとマシな魔族を抜擢すれば良かったのにな。
「雑魚って、見ただけで何が分かるの!?」
「ユーキは人を見る目があるのです。同じ感じで魔族も見れるのでしょう!」
「ま、そんな感じだな。別に変に誤魔化しても仕方ないからネタバラシすると、俺は見るだけで対象のステータスを数値で確認できる。『ステータス・オープン』よりもさらに詳しい情報をな」
「ええ! そうだったのですか!?」
「魔族を瞬殺する力があって謎の魔法をいくつも使えて自分以外のステータスも見れるなんて、神はユーキを優遇しすぎじゃないかしら……?」
「ま、そんなところだから見張りには特に用心する必要はない。アレリアとアイナでも十分倒せるぞ。勇者じゃちょっとキツいかもだけどな」
「ステータスが見れるユーキがそう言うってことは、もしかして勇者って言うほど強くないのかしら?」
「その通りですよ、アイナ。私も勇者に勝ちましたし」
「何気なく言ってるけどアレリアってそんなに強かったの!?」
「そんなことないですよ? 私もアイナよりちょっと強いくらいです。勇者くらいならそのうちアイナでも倒せると思います。あっ、リーダーのファブ……なんとかの話ですけど」
「私も強かった!?」
驚きすぎてなんかアイナがおかしくなってるな。……まあ、自分の力を正しく理解できていないのは問題ありだが、自分の力を過信するのもそれはそれで良くないので釘を差しておくか。
「そもそもの話、勇者は強くない。だから勇者より強いとかそういう基準にあんまり意味はないんだ。そりゃその辺の村人よりは強いけどその程度だ」
あと、さすがにアイナもしばらくは『神の加護』なしでは勇者を倒せるほどの力はない。
アイナの才能なら一週間くらいはトレーニングが必要だな。
「わかったわ……いえ、わかってないけど」
「そのうちわかるようになる。そんなことよりも、魔族は目の前だ。ちょっと話を聞いてくる」
「話を聞くって——」
俺は、拓かれた道路の方までジャンプした。
茂みに当たって、ガサガサという音がする。
その音に気づいた魔族が、驚き慌ててロングソードを構えた。
「何者だ!?」
「どうも。マツサキ・ユーキだ。ちなみに人間だな」
「侵入者ダァァァァ————!」
懐から鈴を取り出し、キンキンと鳴らす魔族。
さすがにうるさい。
「フハハハハ! 人間よ、ここに乗り込もうということは相当な手練れだったのだろう。残念だったな! 例え俺を殺したところで、すぐに仲間が飛んでくる! ジ・エンドだ!」
「ふむ、ジ・エンドはいいんだが、せっかく名乗ったんだから名前で呼んでほしい。あと多分仲間は来ないと思うぞ」
「人間風情のハッタリなどお見通しよ。そんなはずはない! 我らの結束を甘く見るでない!」
「うーん、わからないなら呼び続ければいいんじゃないか? 来ないけどな」
「そんなはずは……ない。いや、なぜ里から返しの非常アラートが鳴らない!? ……俺の知らせが聞こえなかったのか?」
「よくわかったな。防音室みたいなもんだからほとんど音漏れしないぞ」
一旦結界魔法を解除し、魔族を中に入れてから再展開することで、合言葉を教えなくても魔族を閉じ込めることができる。そのための時間は十分にあった。
結界魔法はレベルが上がったことで、消音性能が格段に上がった。
まあ、前のままでも里まで聞こえることはなかっただろうが。
「い、いやいや……魔族なのに俺、犬死にするのか!?」
やっと自分が置かれた状況を理解したみたいだ。
「何を言ってるんだ? お前から聞き出せる情報を全て吐かせる。殺すのはその後だぞ」
10万字超えました!
第2章もあともうちょっとです!
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