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第182話:異世界賢者は砂丘に着く

 ◇


「海……なのに誰もいないんだね」


 ミーシャが呟いた。


 俺たちがやってきたのは、綺麗な砂浜がある沿岸エリア。


 昨日俺たちが遊んでいた場所は平和そのものだったが、ここには多数の魔物が生息している。そのせいで人の姿俺たちの他にはない。


 ……というよりも、魔物が出ないエリアだけを海水浴用に人間が利用しているといった方が正しいか。


 放置しておくと魔物は凶暴化して人里まで来てしまったり、行商人や旅人が襲う可能性がある。そのため冒険者に魔物の数を減らす目的で依頼が出されているというわけだ。


「変な魔物……」


 アリスが奇妙なものを見る目で魔物を見ていた。


「帝国や王国では見ない魔物だな」


 リーシェル公国は島国ということで魔物も独自の進化を遂げているようだ。大陸では見ない魔物が歩いていた。


 俺たちが今回ターゲットにしている『ゴールデンクラブ』は名前の通り、金色のザリガニ。大陸でもザリガニの見た目をした『クラブ』という魔物はいるのだが、それに比べるとかなり大きい。


 色はともかく、サイズが少し変わるだけで急に奇妙に見えるのだから不思議なものだ。


 と、それはともかく。


 一つ言い忘れていたことに気がついた。


「そういや、今日はミーシャとアリスが魔物を倒すってことになってるからよろしく」


「え……?」


 キョトンとするアリス。


「ちょ、どういうことなの? ユーキ君!?」


 焦るミーシャ。


 二人の反応は予想できていたので、用意していた説明を始める。


「俺があえてCランクの依頼を選んだのは、今の二人で力を合わせればギリギリなんとかなるのがこのラインだったからなんだ」


 王国や帝国では冒険者ランクによる縛りのせいでまだあまり高位の依頼が受けられないが、リーシェル公国では自由なランクを選べた。それにも関わらず、あえて低ランクの依頼を選んだのは、ミーシャとアリスの二人を強化するため。


 『ゴールデンクラブ』は、硬い甲羅のせいで防御力が高いが、その代わり動きがノロいらしい。練習用には最適な魔物のはずだ。


「リオン村の魔人戦で感じたことだけど、あれよりも強い敵と戦うことになった時、俺やアレリア、アイナが守りながら戦えないかもしれない。だから、二人にも最低限魔物と戦える力を身につけて欲しいんだ」


 アリスに関しては逃げるだけなら召喚獣を利用してどうにかなるので、最悪は逃げ回ってもらえば良いのだが、ミーシャはそういうわけにもいかない。


 もちろんミーシャの強化魔法は有用。だが……逆にいえば、強化魔法以外では不安が大きい。


「もちろん、危なくなったらアレリアとアイナに間に入ってもらう」


 ちなみにアレリアとアイナの二人にも打ち合わせはしていない。二人とも『え?』という顔をしていたが、まあなんとかやってくれるだろう。


「ユーキ君が言うなら頑張るよ。だけど……今日一日だけで戦えるようになんてなるのかな……?」

「それに関しては問題ない。二人のステータスは足りている。ステータスをきちんと引き出した戦いができれば戦えるようになるはずだ」


 ステータスに関しては、たくさんの魔物を倒してレベルを上げる必要があるため、すぐにどうにかなるものではない。


 俺が気にしているのは、ステータス分の戦いができるかどうか。


 いかに攻撃力、攻撃速度が高くても、きちんと魔物の動きを見て攻撃を当てなければ意味がない。逆に、テクニックを極めれば急所を攻撃するなどしてステータス以上のパフォーマンスを引き出すこともできる。


「そんなもんなのかな?」


「まあ、やってみればわかるよ。俺は人を見る目だけはあるからな」


 俺はアイテムスロットから斧のような見た目の鈍器を取り出した。


 アイナの時もそうだったが、こんなこともあろうかと俺は常に色々な武器を用意しているのだ。

「武器はこれを使うといい」


「これを使うの……?」


「逆に他に使えそうな武器があるか?」


 俺は、アイテムスロットから剣、弓、短剣、レイピアなど多数の武器を取り出してミーシャに見せてみる。


 どの武器も習得に時間がかかってしまう。その点、鈍器は練習なしでもそこそこ使えるので勧めたというわけだ。


「ああー……そうだね、他のは使えないや。でも、よく見たら鈍器も結構可愛い見た目してるし……いいかも。うん、これにする」


 鈍器が可愛いってどういう感覚なんだ……? まあ、納得してくれたのなら何よりだ。


 ミーシャは強化魔法を自分に付与し、準備を終えた。


「じゃ、いくね!」


 そう言いながら、ミーシャは鈍器を両手に持ってゴールデンクラブに襲いかかった。

 カンッ——!


 硬い甲羅に鈍器がぶつかり、甲高い音が海岸に鳴り響く。


「硬っ! なにこれ!?」


 ミーシャは後方にジャンプし、一旦魔物と距離をとった。


「もう一回——」


 カンッカンッカンッカンッ!!


 何度も鈍器を甲羅にぶつけるミーシャ。


 最初はまったくダメージになっていたが、次第に甲羅が脆くなり、ピキッと亀裂が入った。


「意外とちょろ……」


 と言いながら更なる打撃を加えようとしたその時。


「え?」


 ドンッ!


 ゴーデンクラブの攻撃による吹き飛ばされてしまうミーシャ。


「痛っ……うーん、甘くないね……」


 ミーシャはすぐに立ち上がり、再度鈍器を握りしめる。


 そして怒り状態ゴールデンクラブに立ち向かう。だが——


 ザンッ!


「ちょっと、休憩しましょう!」


 アレリアが剣を一閃。


 ゴールデンクラブは真っ二つになり、一瞬にして絶命した。


「何してるのアレリア!? 今いいところだったのに!」


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