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第181話:異世界賢者は迷惑がる

 ◇


 朝九時。


 俺たち五人と二匹は商業区の中にある中央冒険者ギルドに来ていた。


 冒険者ギルドの中は、王都と同じ形式。


 一番奥に職員が座っているカウンターがあり、左には掲示板。右にはこぢんまりした酒場。


 実家のような安心感——とでも言えばいいのだろうか。


 もちろん小さな違いはあるが、勝手がわかるのはありがたかった。


「まさか旅先で冒険者をするとは思いませんでした」


「ずっと遊んでるわけにもいかないしな。違うエリアの魔物と戦うのもいい経験になるはずだ」


 たまに忘れかけるが、俺たちの本業は冒険者。きちんと仕事もして身体が鈍らないようにしておかないといけない。


 それに——リオン村での魔人戦は初めての苦戦。俺にとっては大きく課題が残った形になる。これからも相性の悪い敵や純粋に強い敵がいつ現れるかわからない。


 魔法やスキルはあるが、異世界はゲームではない。この世界で死ねば本当に死んでしまう。現実は漫画やアニメのように都合よく助かるということはないのだ。日々の地道な鍛錬で対策しておく必要がある。


「でも、王国の冒険者が依頼を受けられるの?」


 掲示板で依頼を物色している途中。アイナが尋ねてきた。


「それは問題ない。事前にグラノール王から許可を得ているからな」


「抜け目ないわね」


「まあな」


 感心するアイナをよそに、数多ある依頼の中から一つを選んだ。


「これにしよう」


 俺が選んだのは、『ゴールデンクラブ』の討伐依頼。Cランク冒険者以上の冒険者に推奨されている依頼である。


 ちなみに、俺たちはリーシェル公国の正規の冒険者ではないので、オズワルド王国の冒険者ランクによる制限はない。


 それなのに格下であろうCランクの依頼を受けたのは、ミーシャとアリスの育成を狙ってのこと。


 依頼の手続きを終え、建物の外へ。


「ん、なんだあれ」


 冒険者ギルドの建物の外には、黒装束に身を包んだ十人ほどの集団が騒いでいた。明らかに関わっちゃいけない系の人たちな気がする。


 彼らは拡声器を手に持って騒いでいた。


《神は死んだ! 魔族が現れ、魔人が跋扈し、世界は終焉に向かっている。今こそ、我々は魔王様の復活を望むべきではないか!》


 冗談で言っているような感じではなく、全員が真面目なご様子だった。


「うわあ……。こういうのは目を合わせずにさっさと通り過ぎるのが良いよね。関わらなきゃ害はないよ」


 ミーシャがボソッと言った。


「そうだな」


 俺たちは目立たないよう騒いでいる集団を横切る。


 だが——


《そこの君たちもそうは思わねいかね? もう世界は終わりだ。魔王様……魔王様が転生し、我々卑しい人間を救済していただくのだ。それが一番だ! 反論は認めん!》


 俺たちに同意を求めてくるなよ……。


 朝からキーキーと騒がれるだけで迷惑この上ないが、せめて勝手に騒いでいてくれ。そんなことを思いながら無言でスルーした。


「おっと、ユーキたちじゃねえか。どうしたんだ? そんな顔して」


 うるさい集団を通りすぎたところで、昨日一緒に遊んだアルフレッドたち五人と遭遇した。


「これから依頼に出ようと思ってギルドを出たんだが、変な集団に絡まれてな。……いつもこうなのか?」


 アルフレッドは毎日のようにここを通っているからだろう。あまりあの集団を気にした様子ではなかった。


「そりゃ災難だったな」


 苦笑するアルフレッド。


「二ヶ月くらい前から騒がしくしている。あいつらにも演説ルートがあるらしく、朝はギルドの前が騒がしいな」


 となると、少し時間をズラせばいないということか。とはいえ、あいつらのために俺たちが時間を合わせるというのも癪に障る。


「あいつら、何者なんだ?」


「ヘルヘイムっていう信仰宗教の人間らしい」


「ヘルヘイム……」


 一昨日リオン村でカインから聞いたアレか。


 リーシェル公国で今勢力を拡大している、怪しげな集団……。そういえば、これに関しても調べておこうと思っていた。


「奴らは終末論っていう……要するに近いうちに世界が終わるっていう言いがかりを喧伝してるようだ。実際、最近はゴタゴタしているからな……そこにリアリティを感じて入信する奴が増えてるらしい」


「なるほど」


 まあ、不幸せになりたくないなら特定の考えを信じなさい。さすれば救われる——っていうのはあらゆる宗教の常套句ではあるが。


「と言っても、勘違いするなよ? 国民の多くはうんざりしてるんだ。朝から電波なこと言われて気分が良いわけがない。それに、何か変なことを企んでるって噂もあるしな」


 流行っている……と言っても一部の人間の中での話か。


 こういう輩は文字通り声だけは大きいので、実態よりも流行っているように見えてしまうのかもしれない。


 それよりも気になったのは——


「どんなことを企んでるんだ?」


 禁忌魔法を秘密裏に開発し、使用しているのではないかとカインは推測していた。


 現地人の目から見てどういう情報があるのか気になるところだ。


「んんー、よくわかんねんだけどな。信者がたまに消えるんだよ。忽然とな」


「消える?」


「ああ。入信してからしばらくして、信者が誰にも何も言わず姿を消すんだ。噂では人体実験でもやってるんじゃねえかって話だぜ」


 これは初めての情報だ。


 人体実験……信者を使った禁忌魔法の実験がすぐに思い浮かぶが、情報がまだ少なすぎていまいちピンと来ないな。


「それは……気になるな。俺の方でも滞在中に調べておくよ。色々と不気味すぎるしな」


「そりゃ心強え。何かわかったらこっそり俺にだけ教えてくれよな」


「立場上教えられる情報だけな」


「ちぇ」


 そんなこんなで不満顔のアルフレッドと別れた後。


 俺たちは『ゴールデンクラブ』の討伐のため居住区域の外へ出た。

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