第161話:魔人と戦うことになったんだが①
◇
宿の外に出ると、大勢の冒険者たちが同じ方向に駆けていた。
俺は、ソロで行動している男性冒険者を捕まえて尋ねた。
「何があったんだ?」
「おお……あんたはカインさんに勝った冒険者! 俺もまだ事情がよくわかってねえんだが、とりあえず非常事態だ。走りながら知ってる限りのことは伝える。いいな?」
「ああ、助かる」
冒険者が一斉に出動する非常事態で、俺も冒険者の一人として頼りにされている……かなりきな臭いな。
言葉の通り駆け足で目的地に向かいながら、冒険者の話を聞く。
「村の正門近くで魔物とも人間ともつかない奇妙な生き物が暴れているという通報があったらしい」
魔物とも人間ともつかない奇妙な生き物……俺には、思い当たる存在が一つだけあった。
「魔族か?」
だが、冒険者は首を振った。
「明らかに魔族ではないらしい。俺もまだ直接見たわけじゃないから何とも言えないんだが……魔族の特徴である角も黒い目も翼もなかったとのことだ」
「じゃあ、いったい……」
「『魔人』じゃないか……と言われている」
「魔人?」
「人間の体で魔物の力を取り込んだ存在……と言われている。ここ数百年、存在は確認されていないが、白い髪、鋭い牙、血のように赤い瞳……これらの特徴と一致するそうだ」
人間と魔物の融合みたいなイメージか。
亜人を含めた人間、魔族、魔物はそれぞれ独立した存在。魔人は人間がベースで魔物との中間……ややこしいな。
「強いのか?」
「二百年前に発生した魔人事件では村が一つ滅びたらしいぜ……今回も同じかどうかはわからねえけどな」
「なるほど……」
通りで村の冒険者が焦りを隠せないわけだ。
「魔人化の原因は分かってるのか? それがわかれば……」
「不明だ。二百年前は魔人化した人間を殺したことで決着したらしい。そもそも、生捕にするのは無理だと思った方がいい」
確かに、殺すよりも生捕にする方が難しい。村を滅ぼすレベルの敵となれば手加減する余裕はなかっただろう。
「次の角を曲がった先だ」
目的地付近に到着。
グルルル……という不気味な声が聞こえてくる。
まだ何十メートルか離れているはずだが、骨に響くような低い音がはっきり聞こえる。これがアイナが聞いていたものなのだろう。
道を曲がったその先には、魔人と思われる怪物の姿と、戦う数十人の冒険者の姿があった。
魔人は話に聞いていた通り、白い髪、鋭い牙、赤い目が一目見るだけで記憶に残る特徴的なビジュアル。おそらく、もともとは若い男の冒険者だったのだろうと思わせられる雰囲気だった。
色とりどりの魔法が飛び、数多の近接職が武器を持って立ち向かっている。だが、戦況は良くないようだ。





