第158話:風呂に来たんだが①
◇
宿に戻った俺たちは、宿泊する部屋に置いてあったバスタオルと着替えを持って浴場へ向かった。
四人と分かれ、俺は男湯へ。
スイとアースは俺の方についてきている。
宿の人によると、ペットも一緒に入って良いとのことだった。希に自然の動物が露天風呂を楽しんでいることもあるので気にする必要はないとのことだが、さすがに他の人に迷惑にならないようにはしないとな。
「スイ、アース。浴場では静かにするんだぞ」
「わかった〜!」
「任せろ」
念の為に注意した後、脱衣所へ。
脱衣所は鍵付きのロッカーが細かく分かれていた。鍵が刺さっているロッカーは空いており、鍵が刺さっていないロッカーは使用中。
この辺のルールは日本の温泉や銭湯と同じらしい。
「ん、全部空いてるのか。こりゃラッキーだな」
脱衣所のロッカーが全て空いているということは、浴場には誰もいないということを示す。つまり、広い浴場を貸し切り状態で使えるのだ。
食後の少し遅い時間とはいえ、まさか誰もいないとは思っていなかった。かなりの幸運である。
「ユーキ嬉しそうだナ」
俺がニヤニヤしていることに気づいたアースがそんなことを言ってくる。
「まあ、このところ一人でゆっくり風呂に入れなかったからな。たまにはこういうのも良いと思ったんだ」
帝国にいた時は城の風呂になぜかアレリア、アイナ、ミーシャと一緒に入浴を楽しむのがルーティーンになっていた。
この習慣は王国に戻ってからもなぜか続いており、長らく俺は一人で風呂をゆっくり気ままに楽しむことができていなかったのだ。
毎日がドキドキ……一見羨む者もいそうだが、さすがに毎日はしんどい。俺だってたまには一人の時間が欲しくなるのである。
「スイたちもいるよ〜?」
不思議そうに俺を見るスイとアース。
確かにスイとアースがいるので、今日も俺以外に誰もいないというわけではないのだが——
「スイとアースはいいんだ。いてくれるだけで癒しになるからな」
「ふ〜ん?」
「ユーキってたまによくわかんないこと言うよナ〜」
そんなことを話している間に、俺は生まれたままの姿——つまり裸になったので、タオルを持って浴場への扉を開いた。
モワッとした白い湯気が襲いかかってくる。
予想通り、やはり浴場には誰もいない。他に誰か入ってくるまでは実質俺たちの貸切である。
屋内の浴場も良いのだが、この温泉の売りはやはり露天風呂。誰もいない間に入ってしまいたい。
ささっと身体を洗い早速露天風呂へ。
肌寒さを感じつつ、湯船の中へ。
「はあああああ……生き返るう…………」
まるでおっさんのような感想をついつい口に出してしまう。まあ、実年齢を考慮すれば十分おっさんなので、普通なのだが。
今日はスイとアースの背中に乗っていただけなのだが、それでも長距離の移動というのは知らず知らずのうちに疲労を溜めていたらしい。
溶けるような気持ち良さに身を委ねていると、スイがぽんぽんと俺の肩を軽く叩いてきた。
「どうした?」
「ユーキ〜、泳いでいい?」
「ん、まあいいけど。誰か来たらやめるんだぞ?」
「わかった〜」
俺一人なら誰に迷惑をかけるというわけでもないので、マナー違反ではあるが問題になることはないだろう。
湯気が立ち込める、暗くて広い風呂の中をスイスイと泳ぐスイ。
しかしいくらスイが小さいとはいえ、プールのように泳げてしまうことを考えるとかなり広いな。
……いや、さすがに広すぎないか?





