第152話:答えたくないこともあるんだが
レグルスがリーシェル公国に使者を出してから十日。
ようやく渡航の準備が整った。
昼過ぎ。俺たち五人は早速スイに乗り込み、空の移動を始めた。
五人で乗ると重くなり負担がかかるのは承知の上。長距離の移動になるため、重量を多少分けるよりも交代制にした方がトータルでスイとアースの負担がマシになるだろうという判断だ。
「リーシェル公国までってどのくらいかかるんだっけ?」
水分補給をしていたアイナが尋ねてきた。
「王都から南に二千キロ。さすがにこの距離だと九時間はかかるはずだ」
ヴィラーズ帝国へは千キロの移動で三時間ほどだったので距離だけで単純計算すれば六時間で移動できることになるが、人数が増えているため単純に考えることはできない。
「空の移動でもそんなに……さすがに遠いのね」
「そうだな。まあ、距離が距離だし仕方ない。それと移動だけなら夜に着くとは思うが……まあ、夜についてもしょうがない。今日は途中の街のどこかで一泊しよう」
「うん、私もそれがいいと思うわ。スイちゃんとアースちゃんも休まないと大変だし」
アースを抱き、頭を撫でながらそんなことを言うアイナ。
確かに移動の際は最近ちょっと酷使しすぎている気がする。とはいえ、依頼に出ない日は一日中ダラダラしているので、たまになら平気な気もするのだが。
「リーシェル公国って、暖かくて泳げる海があるんでしたっけ」
アレリアは海に興味があるのだろうか。興味津々な瞳で俺を見つめてくる。
「ああ。エメラルドグリーンの綺麗な海が拝めるそうだ」
なお島国なので、周りは全部海である。
「いいですね! めちゃくちゃ楽しみです〜!」
そういえば、ヴィラーズ帝国はこの世界の中では北国。俺たちが訪れたのはたまたま暖かい時期だったため快適に過ごせたが、それでも一年を通して海で泳ぐというのは厳しいものがある。
海はあるが、南国のように楽しく海水浴ができるような環境ではないので、ある種の憧れがあったのかもしれない。
あまり海については考えていなかったが、仕事でリーシェル公国を訪問するとはいえ、空き時間はバカンスを楽しむのもいいかもな。
「そういや、四人とも海水浴はしたことがないのか」
俺が呟くと、うんうんと頷く一同。
アレリアとミーシャとアリスは当然だが出身が同じだし、アイナは山奥にあるエルフの里……海自体がない。
「ユーキは遊んだことがあるのですか?」
「まあ、昔はな」
「誰とですか?」
「それ関係あるのか?」
質問に対して質問で返すというのは良くないらしいが、こればっかりは仕方がない。誰にだってあまり深堀りされたくないことはあるのだ。
しかし、俺の思いとは裏腹に——
「関係あるわ」
「それ、すごく気になる」
「聞きたい」
なぜか、アレリア以外の三人も興味津々に食いついてきた。
「と、友達とだよ」
言わせんな! 一緒に海に行ける彼女とかいなかったんだからしょうがないだろう。海なんて小さい頃に親や男友達としか行ったことがない。
「友達って男ですか? 女ですか?」
どうしてここまで食い下がるんだ?
「……男だよ。悪いか?」
やれやれと内心ため息を吐きながら答えた。
「あっそうなんですね! なら良かったです!」
なぜか、四人の緊張感が一気に溶けた。
何が良いのだろうか。何も良くないと思うのだが……。
そんなこんなで雑談に興じつつ移動し、日が暮れる直前にシーゲル帝国のはずれ街——リオン村に到着した。
シーゲル帝国は広大な土地を有しており、俺の記憶ではメインとなる帝都はさらに二千キロほど離れている。
リーシェル王国は海を隔てた向こう側にある。
今日はここで一泊し、明日の午前中の到着を目指すとしよう。





