第104話:教えることになったんだが③
俺は、竹刀を用意してほしいという意図で言っているわけではない。
そもそもこの世界には竹刀がないらしい。
王都にも当然なかったし、そもそもそういった概念がない。
練習にも真剣を使うのが常識なのだ。
ただ単に、魔剣は強すぎるのでやめた方が良いと言っただけなのだが——
「ユーキ君なら間違って俺を殺してしまうようなこともないだろう。気にしないでくれ」
こう言われてしまった。
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「大丈夫、何があっても文句は言わんよ。さあ、始めようじゃないか」
「……わかりました。そこまで言ってもらえるのなら、俺も文句はありません」
さすがに、練習ということもあってかユリウスさんが今手に持っている武器はその辺の店で売っている量産品。
万が一があっても問題はないか……。
「では、いつでも好きなタイミングできてください」
「うむ」
と、答えるユリウスさんだったが——
「………………」
「………………」
睨み合うこと約十分。
ユリウスさんは、自分である程度の自信を持つだけのことはあり、普通に手練れの剣士。
それだけに、隙がないとまったく動こうとしなかった。
模擬試合でもまったく手を抜こうとしない故に、俺に隙ができるまで待っているのだ。
しかし俺だって身体が剣の使い方を覚えてしまっている。
格下——という言い方はあまり好きではないが、自分よりも実力が劣る相手に隙を見せることはない。
……それが、意図しない限りは。
このままだと、一時間も二時間も睨み合いを続けてしまうことになるかもしれない。
仕方ないな……。
「……っ!」
俺はわざと隙を作り、ユリウスさんの攻撃を誘導する。
しかし、罠だと思わせてしまったのか、少し反応はあったものの実際に動くことはなかった。
なかなか慎重派だな……。
いや、一国の主にはこのくらいの慎重さを持ち合わせて欲しいところではある——か。
それならばと、さらに大きく隙を作る。
ようやく痺れを切らしたユリウスさんが攻撃を仕掛けてきた。
「うおおおお——‼︎」
「……」
俺は、ユリウスさんの一撃を腰を捻ることで紙一重で躱し、脚力に任せて一気に旋回。
そして裏から回り込む。
寸止めで試合終了に持ち込もうとしたが——
「……!」
なんと、ユリウスさんは俺の動きに合わせて強引に剣を向けてきたのだった。
咄嗟にユリウスさんの剣を弾くように魔剣を振る。
カキンッ!
金属音が鳴り、ユリウスさんの剣が折れ、天井に飛んでいってしまった。
ユリウスさんの手に反撃できる武器は存在しない——
「……なっ!」
ユリウスさんに刃が当たらないように剣をそのまま流し、返しの動きで首筋に寸止め。
冷や汗を流すユリウスさん。
「ここまで、かと」
俺の言葉と同時に、折れた剣の先が落下し、床を貫いたのだった。
「もはや、凄すぎて参考にならんよ……」
「すみません」
「いや、それだからこそ安心してアレリアを任せられる」
その言葉で、俺はとあることに気づいた。
ユリウスさんは、俺に剣の指導をしてほしかったのではなかった。
いや、正確にいえばそれも理由の一つではあったかもしれない。
それ以上に、俺が本当に魔族を倒し、アレリアと一緒に冒険をしていたのか……この目で確かめたかったのだ。
アレリアの言葉を疑っていたわけではないだろうが、娘を大事に思うからこそ、深層心理が疑いを発生させていた——とすれば、自然なことのように思う。
俺は言葉にならないメッセージを理解した上で、
「ええ、任せてください」
と返事をした。





