1人と1匹
今回は いよいよスキマの世界に入ります!
……本当に明るい。普段は街灯もなくて真っ暗な道が、不思議な色の蛍で照らされて
凄くよく見える。
「綺麗ですねぇ」
「この蛍は常世蛍って言うんだ、夜でも転けないから便利だぞ」
常夜灯なの??
スタスタ歩きながら、周りを見渡す。どこに向かうんだろう。
「あの……どこに入口があるんですか??」
どう見ても路地をウロウロしてるとしか思えない。
「んー、わかんねぇ」
「は?!」
ありえない、と言った顔で見つめる。しょうがないだろ、とこちらを見返す彼。
「よく入口は変わるんだ。こいつらに着いてくしかねぇの。多分もうすぐだと思うぞ?」
…言われてみれば、蛍の光が強くなっている気がしなくもない。
「あ」
蛍が集まっている、古びたドアが見えた。
「お、ラッキー扉じゃん」
扉じゃない時があるんだろうか
いや、深く聞かないでおこう。
「こんなに普通のとこにあったら、うっかり入る人けっこう居そうですね。」
「ばーか、そういねぇよ、忘れてるだろうけど人間にはここ真っ暗に見えてるんだぞ?」
それもそうだった。こんな入り組んだ所、真っ暗なら人間がたどり着けっこない。
…にしても、階段真っ暗なんですがそれは
「蛍はこの先いねえよ、あいつら入口までしか来れないから。」
ほら、としゃがむツキさん
???なんだろう
「夜目が全く効かないお前が歩ける訳ないだろ?おぶるから乗れ」
それもそうなので、大人しく乗っかる。ひなたは先に歩いていった。
さすが猫だなぁ。
おお、思ったよりも高い
「よーし、行くぞー」
扉が錆びた音を立てて閉まる。
ここからがいよいよ、あの世の入口か……
「あああの、私は着いたら具体的に何をすればいいんでしょうか??」
「ん?あぁ、まず、これを飲ませる。」
………これと言われても全く見えない。
「あぁそうか、見えないんだった。水だよ、亡者専用の」
曰く、それを飲ませると、現世の記憶が消えてしまうとか。
記憶が消えれば、現世に縛られることも無くなり、すんなりあの世に連れてゆけると言うわけらしい。
「……それ、私いります??」
「重要なのはここからだ。肉体がない以上、俺が触れると精神を壊しかねない。人間だったあいつを傷つけずにあの世に連れて行けるのは、お前だけだ」
私だけ……私が連れていかなきゃいけないんだ。頑張らないと…
「あ、あの姿のままなんですかね……あの人……」
だとしたらなかなかキツい。精神的に。
「そりゃあいつ次第だなぁ。いっぺん燃やしたから、どんな姿になってるのか俺にもわからん。」
「そんなぁ……」
そうこういってるうちに、下に付いた。降りていいぞ、とツキが言うので、恐る恐る降りると、ふわふわとした地面に足が着いた。
扉を開けると、駅の改札のようなものがあり、文字は読めなかったが
入口らしいことはわかった
入口には、鬼のような角が生えた人が立っており、警備員のような制服を来ている。
そのうちの一人がツキに声をかけられた
「これはツキ様。こちらの1人と1匹は?」
「連れだ。迷子じゃねぇよ。」
お通りください。と言われるまま中に入ると、さっきの看板が見えた。
知らない文字だが、なぜだか
《スキマへようこそ》
と書いてあるのが見えた。
しかし。人が多い…
「どうやって探すんですか?これ」
「あぁ、迷子センターだな。」
迷子センターなんてものがあるのか
「そんなところがあるんですね〜」
どうやら、ここで家族が現世から来るのを待っている人もいるらしい。つまり逆も然り。
人探しが出来る所のようだ。
直ぐに迷子センターの看板が見え、そこにはウサギが1匹カウンターに座っていた。
「いらっしゃい!誰をお探し?」
「シャベッタァァア」
本日数回目の奇声をあげる私の頭をチョップする鬼さん
けどまずい
「にしても、名前かぁ……うーん……」
「アツキ。東雲 敦己よ。」
?!驚いて下を見る。
キョロキョロする私を置いて、うさぎは問いかける
「分かったわ、容姿の特徴は分かる?」
声の主……ひなたは迷わず言う。
「赤毛で、頬にそばかすがあるわ。」
…………シャベッタァァア?!
脳みそがパンクする私を置いてうさぎはカウンターの奥に引っ込む。
すかさず私はツキさんに問い詰める。
「しゃべった!!!喋ってますよ!!!シャベッタァァア!!!」
「うるせえよ!!?……ここは言語の区別がないんだ。鳥でも牛でも猫でも喋る。」
語彙能力が著しく低下してる私に丁寧に説明するツキさん。
マ??あの世凄すぎない??
つまりリアルに動物とおしゃべりできるわけかぁ……。
天国???いや、天国だったわ。
「あの〜、分かったわよ。あそこにいる子ね。数時間前に来たばかりみたい。」
「お。ありがとよ。ほら、行くぞ!」
カウンターのウサギさんにお礼を言い、目的の人物に話しかける。
数時間前の見た目からは想像もつかない。小さな男の子がいた。
…小学5年生、いや、6年生くらいだろうか。
「あの……」
話しかけると、少年はビクッとして
後ずさった。
「ごめんなさい!!!!」
そして綺麗に土下座をした。
「えぇ?!」
急な小学生の土下座に混乱していると。目の前の少年…敦己さんは喋り出す。
「俺……全部覚えてて…殺されて、母ちゃんに迷惑かけて、ひなたひとりぼっちにして、アンタを…殺そうとした…気が付いたら。ここにいたけど、どうしたらいいか分からなくて…」
なんて謝ったらいいか…、と、敦己さんは頭をあげそうにない。
どうしようか…とあたふたしていると
ひなたがにゃぁ。と鳴いて、あつきさんに擦り寄る。
喋らず。あえて猫の鳴き声を出してるようだ。
敦己さんの目に光がやどり、そして涙を貯めはじめた。
「あ……あぁ、ひなた…お前死んじまったのか……お前まで…俺は…!!」
「ちがう!!そうじゃな「にゃぁ!!」
私がそれを言う前に、ひなたが強くひと鳴きし、彼の涙を舐めとる。
彼の体が、透けはじめていた。
「?!」
驚く敦己さんに、ツキさんが近寄る。
「アツキ、俺のことは覚えてるな。お前はまだ現世に魂を縛られている。このままでは、このスキマの次元の底に閉じ込められ、苦しみ続けてしまう。」
だから、これを飲んで、こいつに着いていけ。と、小瓶を渡すツキさん。
「…わかり、ました。」
敦己さんが小瓶の蓋を開ける。
いつの間にかひなたは、私の足元に座っていた。
液を飲んだ敦己さんは、地面に倒れ込む。
「え?!大丈夫なんですかこれ?!」
「大丈夫。数分で目が覚める。」
…もう、敦己さんの体は透けていなかった。
すると、ひなたが私の裾をちょいちょいと引っ張る。
「あのね花夜、お願いがあるの。私、お兄ちゃんと一緒にいくわ。」
耳を疑った。だって、それはつまり
「ひなたちゃんは、それでいいの…?」
「ひなたって名前は、もう忘れるわ。お兄ちゃんが、忘れてしまうのなら、私はまた初めからお兄ちゃんの妹になりたいの。」
……ひなたちゃん……
「それにもう、私ほぼ化け猫だもの。これ以上は疲れちゃうわ。」
そう笑いながら彼女は言う。
でも、そうひなたちゃんが決めたなら、私に止める権利はない。
「分かったよ。……素敵な黒猫さん。また、幸せになってね。」
「もちろんよ!」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、足に擦り寄る。
「それに!私がひなたじゃなくなっても、ツキ様が居ればまた会えるでしょ?」
ちら……とツキさんを見る。
「……ぁぁあ、もう、たまにな!!!たまに!!」
「ありがとう!ツキさん!」
さて…とツキさんが話を締めくくり
敦己さんの頬を扇子で小突く。
「そろそろだろ、おきろー。」
「……あ?ここはどこ?俺は…だれ?」
「お前はアツキ、ここはスキマだよ、こいつが案内してくれるから、さっさと行くべきところに帰りな。」
そう言うと、妙に納得した様子で
私の隣に来る。
ツキさんに促されるまま来た時とは別の階段に上り
あの世のゲートまで手を引いて歩く。
仰々しい門までたどり着き
お別れの時が来る。
「着いたね…」
「ありがとうございました!この門をくぐればいいんですよね!」
「あ、その前に」
忘れちゃいけない。
「この子、一緒に連れて行って欲しいの。あなたの家族として。」
ずい、っと、アツキさんの前に、黒猫さんを差し出す。
「え?いいの……?」
「もちろん!猫はすき?」
大好き!と答えると。すぐ抱きしめる。
ふわふわとした毛に頬を埋めて
彼はこう言った。
「オレ、猫大好きだった気がするんだ!特に黒猫!……お前、めちゃくちゃあったかいなぁ……」
ひだまりみたいだ。と彼は言った。
あぁ、そうか。
「ねぇ、名前、決まった?」
「ひなた!これしかない気がする!」
ひなたが、目を見開く。
大事なことは忘れないものだ。
たとえ、覚えていなくても。
彼にとって彼女は、『ひなた』以外のなにものでもなかったのだろう。
涙を零しながら、ひなたがにゃあ、と鳴いた。
よかったねぇ、ひなたちゃん。また会おうね。
1人と1匹がゲートを通り抜ける。
門が閉まる前、ひなたがアツキさんに擦り寄るのが見えた気がした。