ひなたのはなし
ひなたちゃんの生い立ちと、悪霊の正体の話です。
ーひなたは、もともと野良猫だった。
いや、捨て猫、という方が正しいか。
子猫の時に捨てられ、溝の近くで寂しく鳴いていた所を通りかかった男の子に拾われた。
男の子は、やんちゃだがとても優しい子で、服が汚れるのも気にせずに家に連れ帰り、自分をお湯で温め、ノミを取り、暖かいミルクを飲ませてくれたのだという。
「お前はとっても暖かいから、ひなたって名前にしようね。」
この時からただの捨て猫だった自分は、ひなたになった。
男の子は、中学生になった。
その頃からだろうか、彼から煙のような匂いがしだした。
乱暴な友達を連れてくるようになり、ひなたにはやさしかったが、お母さんには怒鳴るようになった。
よく怪我をするようになり
日に日に傷は増えていった。
高校生になる頃には、怖い人達とつるむようになった。
ひなたにもあまりかまってはくれなくなった。
寂しかったけど、たまに布団に潜り込んでみると、抱きしめてくれたから、がまんした。
そして、忘れもしない、あの日
悪い人たちが、彼をつれていった。
わたしの目の前で、ちいさな車におしこまれる彼を、どうすることも出来なかった。
おいかけて、おいかけて、それでも追いつけなかった。
いくら待っても、彼は帰ってこなかった。
ある日
お母さんが、四角い箱を抱えて泣いていた。白い箱は見た目より重くて、暖かかった。
でも、彼がその時、帰ってきたのだ!
何故かずぶ濡れだけれど
間違えるはずがない、彼だ。
私のたった1人のお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、私の頭を撫でてくれた。
しばらくしてから、お兄ちゃんはもう死んじゃってるんだって分かったけれど、その時は、彼がそこにいるだけで幸せだった。
でも、お兄ちゃんはまたいなくなった。
しばらくして帰ってきたお兄ちゃんは、もうお兄ちゃんじゃ無くなってた。
嫌な臭いがして、ブツブツと何かを言っていた。
それでも、私やお母さんから離れようとはしなくて、コレはお兄ちゃんなんだと思った。
その時からだ、お母さんが、目に見えて体調を崩しだした。
お兄ちゃんが原因なのは、明らかだった。
わたしは、一生懸命お兄ちゃんの気を引き、外に出た。
そうするとお母さんの調子が良いのだ。すこし、しんどいけれど、大丈夫だろう。
その頃、近所の猫達から優しい女の子がいると聞いた。初めはあまり近づかないようにしていたのに
お兄ちゃんに憑かれて、精神的に参ってしまっていた私は、女の子に甘えてしまった。
そう、花夜だ。
しかしこれがいけなかった。ある日気がつくと、お兄ちゃんが後ろにいなかった。
花夜が目をつけられてしまったのだ
わたしは、彼女まで死なせたくなかった。
だから、お兄ちゃんが花夜から離れたタイミングで、ペンダントを奪い
がむしゃらに走った。
そして、偶然たどり着いた社にいた、狐の神様に助けを求めたのだ。
彼は、助けてやると約束をし、私を社に匿った。