【けもみみ番外#2】 ぷかぷか
イラスト:賀茂川家鴨
~まえがき~
僕、麦野こずえは、は、きたのうみへ遊びにいき、メディアちゃんと一緒におたからさがしをしていました。なんだかいろいろなものが流れ着いています。メディアちゃんが気になって拾ってきたものは、一見すると、なんだかへんてこなもので……。あれ? これって、もしかして……。
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このおはなしは、『けもみみさんとあそぼう!!』の番外編その2です。
時系列は、本編#2の後です。
番外編では、登場キャラクターの紹介を、かなり、はしょっています。
また、ちょっぴりネタバレがありますので、さきに本編を読んでおいたほうが楽しめると思います!
~登場キャラクター~
麦野こずえ(こずえちゃん) 探検服に麦藁帽子をした、ヒトの女の子らしいです。たぶん。
フェリス・メディア(メディアちゃん) りんごが大好きで、ねこの獣耳をした女の子です。とっても力持ちです。
校閲:ざっくり。
けもみみちず(第1版)
(C)賀茂川家鴨(2019)
僕とメディアちゃんは、おたからさがしのため、「きたのうみ」にやってきました。
「なにか、おもしろそうなもの、ないかな~?」
さんさんと降り注ぐ日差しの下、きゅっきゅっと砂を踏みしめて歩きます。
うみからただよう潮の香りが、鼻腔をくすぐりました。
メディアちゃんの尻尾は、僕の右手首にきつく巻きついています。
「メディアちゃん、向こうに何かあるよ」
「なになにー? いってみよう!」
メディアちゃんの獣耳が、僕の指差す方に向きました。
近づいてみると、木片が散らばっています。
「き? でも、たおれちゃってる」
「うーん。湿っているし、流木かな?」
「りゅうぼく?」
メディアちゃんは猫の手で流木らしきものをつんつんとしています。
木の破片にはボルトとナットのようなものがくっついていました。
付近にはガラス片が削れたシーグラスが散らばっています。
「うん。流れてきた木のことだよ。どこかに生えていた木が、うみをこえて流れ着いたみたい」
「へー、うみをこえてきた木なんだー。こずえちゃんは物知りさんだね!」
「ありがとう、メディアちゃん。でも、僕よりディエスさんのほうが、いろいろなことを知っていると思うよ」
「うん、ディエスもものしりさんだよね。でも、こずえちゃんはボクにいろんなことを教えてくれるのが、とっても上手だと思うよ! やっぱりこずえちゃんはすっごいや!」
「メディアちゃんは優しいね」
メディアちゃんの獣耳を後ろを左手で撫でてあげると、頬を寄せておねだりしてきました。
*
ふと、メディアちゃんは、何かを拾い上げました。
「あれ? なんだろう、これ。ひょろっとしてる」
「たぶん、うきわ、かな」
うきわは前に説明したので、メディアちゃんもなんとなくわかります。
でも、うきわはしぼんでいます。
「ええっ、これが、うきわ? まるくないよ?」
「ふくらませて使うみたい」
「おもしろそう、やってみたーい!!」
「うーん……ちょっと待ってね」
見た感じ、うきわは新品同様です。
空気穴に思い切り息を吹き込みます。
何度も繰り返していると、うきわが円い形になっていきます。
メディアちゃんの目をまんまるになっていきました。
まんまる緑のスイカデザインです。
「わっ、でっかくなった!」
「はぁ、はぁ……できたよ。着いてきて」
うきわに耳を当てて空気漏れがないことを確認しながら、うきわを持って海に向かいます。
足が海水に浸かると、メディアちゃんは小さく身震いしました。
「つめたっ」
おだやかな海の浅瀬に、うきわをぽんと置きます。
「メディアちゃん、うきわに乗ってみて」
「乗ればいいんだね! よーし、乗るぞー」
「……えっ」
いまにもジャンプしそうなメディアちゃんを引き止めました。
「うわぁ、そーっとだよ! おぼれちゃうよ?」
「そーっと?」
「うーん……。じゃあ、こうしよう!」
僕はメディアちゃんの手を引いて、メディアちゃんの体に、うきわをすっぽりと、はめます。
手を離してみると、メディアちゃんは海にぷかぷかと浮かびました。
「わーい、すごいや! 見て見て、こずえちゃん。ボク、うみに浮いてるよー! ぷかぷかしてるー!」
メディアちゃんは手足をばたばたと、ねこかきして、ちょっとずつ、あらぬ方向へと移動していきました。
「あんまり遠くにいったら危ないよ?」
「わかった!」
うきわに括り付けられた白い紐をつかんで、ぷかぷかするメディアちゃんと一緒に浅瀬を歩きます。
「ねえねえ、こずえちゃん。うみのむこうには、なにがあるのかなー?」
「うーん……僕にもわからないや。いつか、海の向こうにもいってみたいな」
「じゃあ、ボクも着いていこうかな。なんだか楽しそうだし! ……うみゃ! 目がひりひりするよー!」
「わあ、だいじょうぶ?」
メディアちゃんの目を拭ってあげると、大きく伸びをしてきました。
*
あそび疲れてからは、夕焼け空の下、メディアちゃんと一緒に、浜辺でのんびりとお昼寝していました。
「僕、いつもメディアちゃんやみなさんに頼りきりで、迷惑かけてばかりで、ここにいていいのかなって……。だから、みなさんの役に立てたるようになりたくて」
「へーき、へーき。ボク、ジャンプはとくいだけど、泳げないし、文字なんて、ぜんぜん読めないや。こずえちゃんは、がんばりやさんだね!」
「メディアちゃん……うん。ありがとう。いまの僕にできることを、がんばってみる。でも、何をすればいいんだろう。みんなのためになること……。メディアちゃんとはいつもあそんでいるし、ディエスさんの研究のお手伝いは難しいし、ニジイロチョウさんはどこにいるかわからないし、うーん……」
メディアちゃんの獣耳が、潮風に合わせて、ゆらゆらと揺れています。
「まずは、ここがどんなところなのか調べてみたい。まだ、知らないことだらけで、新しいお友達に会えるかもしれないから」
それから、僕のほかにも生きているヒトがいるかもしれないからです。
メディアちゃんの尻尾が、きゅっと僕の手首を引き寄せてきます。
「ボクは、ずっとずっと、こずえちゃんに着いていくよ。きっと、こずえちゃんのいいところが、たくさん見つかると思うから!」
「ありがとう。これからもよろしくね、メディアちゃん」
*
ヒトの痕跡は見つかりますが、ヒトが見つかりません。
もしかして、本当にヒトは……。
メディアちゃんは、僕の膝の上で、ちょっぴり早い呼吸音を立てて、寝転がっています。
獣耳の裏を優しく撫でて、夕日の下に広がる水平線の向こうへと思いを馳せました。
「遅くなっちゃったね。そろそろ帰ろうか」
「わかった!」
メディアちゃんはぴょいんと跳ねるようにジャンプして、きゅっと砂を鳴らします。
僕はいつまでメディアちゃんとお話できるでしょうか。
ひまわり畑を抜け、リコリスさんとシルクさんに挨拶してから、おうちに帰ります。
~ミニあとがき~
「ねえねえ、今度は、こずえちゃんが、うきわに乗ってみてよ!」
「……うん。いいよ」