小説案 ⑥:「ラスト・ドレッサー」
谷村はうんざりしたような表情を浮かべて電話を切り、隣に座る秋本にその内容を告げた。
「秋本さん、また自殺です。今月だけでもう11件目ですよ・・・」
「おいおい、お前の気持ちも分かるが、現場に向かうのが俺達の仕事だろ。さっさと行くぞ」
そんなことを言った秋本だったが、実のところ彼自身も最近頻繁に起こる自殺に不信感を抱いていた。その理由を考えようとした時、谷村がこの気持ちを代弁するかのように愚痴をこぼす。
「・・・また現場に置かれているんですかね。“季節外れの彼岸花”が・・・」
秋本もまさにそれが不思議でならなかった。今月の始めに起こった不審死、その現場には遺書の横に何故か一輪の真っ赤な彼岸花が残されていた。そして昨日までに判明した計10件の現場全てに、同じ赤い彼岸花が置かれていたのだ。秋本は当初、これらは全て自殺に見せ掛けた連続殺人事件なのではないかと推理したのだが、そうすると二つの疑問点が浮かび上がる。
第一に、何故犯人がわざわざ彼岸花を置いていくような真似をするのか。現場には自殺した本人の指紋や足跡くらいしか残っておらず、何件かは本人の筆跡の遺書も発見された。あの彼岸花さえ無ければ、誰が見ても疑いようがない自殺と思える。
第二に、現場のほとんどは部屋の内側から施錠されており、昨夜の現場にいたっては内鍵しか付いていない、完全な密室空間だったという事だ。そんな場所に侵入し、犯行後に彼岸花を置いて部屋を出て施錠出来るはずもない。全くもって説明のつかない怪事件である。刑事になって20年以上の秋本でさえ、こんなに謎めいた事件に直面するのは初めてのことで、谷村が運転するパトカーで現場に向かう車内でも、その助手席で腕組みをしながら答えの出ない問いに頭を悩ませていた。
15分ほどで現着し現場の住宅に入ると、家の中では先回りしていた鑑識班が早速指紋の採取や遺体の身元確認を行っていた。
「おぉ、秋本警部。どうやらまた首吊りのようでして、この延長コードを使ったようですね」
秋本は自殺の方法はもうどうでもいいらしく、鑑識に急いで尋ねた。
「それはいいんだが、また現場にアレはあったのか?」
「えぇ、この・・・赤い彼岸花が遺体の足元に落ちていました。これも満開といった感じでしょうかね」
鑑識が差し出した袋の中に、一輪の彼岸花が入れられていた。まるでさっきまで地面に根差していたかのように美しい赤色の花弁と、青々とした茎。この鮮やかさが秋本にはむしろ枯れ果てた死を連想させた。
こちらは自分の考えた小説の案を使って、そのワンシーンだけをとりあえず書いてみたものです。
出してみて、何かしら反響があった場合には作品として書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。