6.襲撃
どこからともなく聞こえてくる声の正体、それはすぐさま姿を表した。
「黄花なにを泣いている。そんな思い入れもないやつらなどまたすぐに殺してしまえばいい」
泣き崩れる黄花の横を一寸の黒い風が吹く。
またたく間に人形の形になり、不気味な笑みを浮かべていた。
「誰だお前!割り込んでくんじゃねー!」
再び再生の剣を武具化し攻撃をしかけようと走る。
その時だった普段ひょうひょうとしているアンドレが鬼気迫る声で叫んだ。
「そいつに近づくんじゃねー!みんなとっと離れろ!」
いきなりの大声に駆け出した体勢のまま俺は停止した。
「これはこれは!4将が一人大爆発のオンドレ?さんではないですか?」
「誰がオンドレなんだかねー?僕の講習を邪魔するとはいい度胸だよねー?とりあえず僕の生徒から離れてもらえるかねー!」
そう言うとアンドレは瞬時に再生の剣を展開し足袋に爆発を起こし高速で謎の男に近づく。
この前の訓練の時とは比べ物にならないくらいの瞬間的な移動。
「部外者禁止って表に書いてあったよねー」
近づいたアンドレが指を鳴らすと大爆発が起こった。
「大喝采一ノ章!!」
いわゆる指パッチンをして、空気を振動させ小刻みな爆発を起こして敵を攻撃する。
直接的な爆破攻撃ではないが強力な爆風により対象物を吹き飛ばすことができる。
モクモクと立ち込める煙が晴れかける。
「ほぉー、やっぱりねー。ただの部外者ってわけではなさそうだねー」
煙が完全に晴れると静けさをかき消すように突如現れた謎の男が再び姿を表す。その平然とした立たずまいに驚きを隠せなかった。
「マジかよ!あの爆風でも全くダメージを受けていないだと」
「いやーやはりすごい!これが大爆発のアンドレの力ですか これだけの強者と対峙すると、あぁ〜あーゾクゾクしてしまいます〜」
「ただの部外者ではなくねー。変態さんなんだねー。とりあえずお縄についてもらおうかねー。大喝采二ノ章!!」
そう言うとアンドレは再び攻撃を仕掛ける。
先程の大喝采一ノ章が連続での小規模な爆発なのに対してニノ章では両手を合わせ隙間を空けて、手のひらの空気を爆発させて相手に爆風を与える。
連続性のある攻撃ではないが一ノ章とは違い格段に爆発の威力が違う。
体全身に感じる大きな爆発音と共に謎の男は大きく宙を舞った。
これにて決着かと思った矢先、男は再び立ち上がった。まだオシリスシステムを破るほどのダメージは受けていないようだ。
「んんーーーこれは流石にこの私も本気を出さないと殺されてしまいます〜 その前にそこの奴隷をもらっていきますよ!」
男は黄花に近づこうとするもアンドレが立ちはだかる。
「そんなにねー、どうぞどうぞと生徒を渡せるわけじゃないんだよねー」
次は直接攻撃に出て拳を振るうアンドレ。拳と肘部分を交互に爆発させてまるで自動小銃のように目に見えない速さで叩き込む。成すすべもなく訓練場の壁に大きな衝撃と共に敵がめり込む。
「すごい!これがスペシャリストの力なのか」
俺自身間近でのスペシャリストの戦いを見るのは初めてで、自身との実力差に驚かされる。
黄花の元に駆け寄るアンドレ。
「黄花くーん。大丈夫かねー?君はあの男に覚えはないのかねー?」
「いえ···まったく知りません。ただ僕は一年以上前の記憶は無くしているので」
「授業参観ってわけでもなさそうだしねー」
アンドレと黄花が話をしていると謎の男は立ち上がった。
さすがにダメージが大きいのか足を震わせながらゆっくりと立ち上がる。
「あっはははぁ!やはり貴方は最高だ!いくぞアンドォレェ!!」
謎の男は再生の剣を展開させて大きな熊手を手に持った。あれがやつの武具なのだろう。異常に大きな引っかき爪に真っ黒いフォルムの熊手。
男が熊手を振るうと竜巻が発生してアンドレのほうに向かっていく。
「まだ生きてやがったのかねー。しぶといねー!」
竜巻はアンドレの目の前まで迫ったがアンドレも爆風で竜巻を相殺する。
「とーっておきのをあげるよ〜!双翼のかまいたち!!」
男が大きく熊手を振りかざし、バツの字を描くとそこから風の塊が2つ飛び出した。
「これはちょっとやばいねー」
相殺しようと拳を振り上げるも、風の塊のスピードは加速してアンドレに向かっていく。
徐々に風の塊は姿を変え片方羽の生えた獣の姿になった。
その獣がアンドレを襲う。
その力は予想以上で先程の竜巻とは比べ物にならない威力を誇っていた。
さすがのアンドレも拳だけでは相殺できなかった。
獣のはアンドレを飲み込み体を切り刻んでいく。
「んぐっ······大喝采ニノ章!」
爆発により獣を打ち消したアンドレであったが自慢の毛皮に無数の線が入り、そこから止めどなく赤い血が流れていた。
そしてアンドレの茶色毛皮を褐色の色へと変貌させていた。
「まいったねー。ちょっと油断したらこれだからねー、生徒の諸君も油断しないようにねー。勉強になったねー」
生徒の悲鳴が場内に響く。
いくら再生の剣にオシリスシステムがあるからといっても防御にも限界がある。
ここで俺はたまらずに間に割って入ろうとしたがどこから湧いてきたのか針風が俺を止めた。
「おい涼介!なにを考えている。お前がこの戦いに割って入ったところであの変なマゾ野郎に殺されるだけだ!」
「しかしよ!このまま放っておいたらいくらアンドレでも出血多量で死んでしまうだろ!それにみんなも···」
「お前の言い分もわかるんだが今のお前では結果は見えている」
「こんな状況でもなにもできねーのか···」
自分の力の無さを今悔やんでも仕方ないのだがこの状況が続けばアンドレだけでなく自分自身や真白、真黒も危ない。
「まあ聞きな大将!ここは俺にちょっと任せろ!」
出会って間もないのだがこんなに頼れるやつだったのか針風!
「それでどうするんだよ!?お前が戦ってくれるのか?」
「俺があんなやつに勝てるわけねーだろ!それに俺の武器はちくわだしな」
ち···ちくわ?こいつはなにを言っているんだ。
先程の発言は即時撤回だ。
「じゃあどうするんだよ!?」
「お前、お前を壊す!」
そう言うと針風はちくわから吹き矢のように針を出し俺の額に突き刺した。