5.模擬戦
歓喜をあげる女子となぜか黄花に覆いかぶさる俺と頬を染める黄花。
この状況は一体なんなんだ·····。
このBL展開を引き起こすまでには10分前まで遡る。
アンドレの実技講習が始まるとみな再生の剣を武具化させる。
この時を待っていたとばかりに黄花に近づく。
「黄花!お前の武具ってどんなんなんだ?」
心を覗かれないように笑顔で近づく。
「木場涼介くんだっけ?僕の武具はねー、これなんだ!」
そう言うと黄花は再生の剣を武具化させて満面の笑みで俺に見せてきた。
俺は一瞬言葉を失ったと同時に朝考えていた事が確信に変わった瞬間でもあった。
「銃にヒマワリの紋······やはりお前1年前の!」
問い詰める俺をよそに黄花は子供が不思議そうに他人を見るように俺を見つめていた。
「ちょ!ちょっと!木場くんどうしたの!?僕は君の言ってる意味がわからないんだけど!」
「しらばっくれても無駄だ!俺と戦って俺が勝ったら本当のことを教えてもらう!」
半ば強引に黄花を連れてアンドレの所に向かった。
「安藤先生お願いがあります!彼と俺との模擬戦をお願いしたいです!」
あっさりとOKを出したアンドレ。
アンドレ自身も戦いたいのだろうな少年のような瞳でこちらを見つめてくる。
「んっ!先生とりあえず審判お願いします!」
「しょーがないねー、終わったら僕と戦ってくれないかねー?」
非常に遠慮したいところだ。
それよりも黄花が1年前俺を殺した相手ならやつは必ずあの技を出してくるはずだ。
「木場くんがなにを知りたいかわからないけど戦いになったなら本気でいかせてもらうよ!」
「安心しろ!こっちもそのつもりだ! いくぜ黄花!」
双剣を展開させて猪突猛進に突っ込んでいく。
相手は遠距離攻撃が得意なライフル型の銃、必要に距離を取れば照準をあわせられて銃撃を食らってしまう。
ここは一気に距離を詰めて攻撃を与えるのが得策だ。
もちろんその行動を見透かしたように黄花は後退して距離を取る。
だがそこは想定内だ遠距離武器の相手には行動を読ませないようにするのが勝利の鍵となる。
そこで俺は予測させないように唐突な動きを加えることにした。突然横に跳ねたり、ローリングしたりととにかく多くの動きを加えながら接近を試みた。
この動きはある意味滑稽なのだろう。
周りからは笑っている生徒の声も聞こえる。
「くっ!この動きだと捉えるのが難しいか」
黄花がそう言っている間にあと3歩の所まで追い詰めた。
その時場外から俺の足首めがけて蔓が飛んできた。瞬間俺は大きく前に転んでしまったのだ。
「うぉぉ!危ねえー」
そう大声で叫ぶと黄花目掛けて大きく転倒した。
そして冒頭の用ななんともいかがわしい光景になってしまったのだ。
「ちょ···ちょっとどいて欲しいんだけど!」
恥ずかしながらも少し怒った表情でこちらに喋りかける黄花。
さすがに黄花が男と言えどもこう近くで顔を合わせると小っ恥ずかしいなってくる。
「野性味溢れる涼介くんと美少年転校生黄花くんの美男と野獣カップルよ〜」
盛り上がる女子の中で人際歓声を上げたのは戦闘科2年『栽培姫』こと木暮京香。
彼女の再生の剣は植物の種。これを急速に発育させて操ることができる。しかし種の品種は選ぶことができない。
「京香!お前の仕業か!」
「さあねー、でもご馳走さま!もっと勢いに任せてキスしちゃえば良かったのに」
京香は男同士の絡みが好きなのだがその対象は俺のみとなっておりこれまでは散々俺と青葉の接触を見るがために罠をしかけられていた。
「男とキスできるわけねーだろ!そんなことより今は大事なとこなんだよ!」
戦いの続きをしようと黄花の方を見てみると武具を解き立ち尽くす黄花がいた。
「どうした?邪魔が入ったが戦いは終わってねーぞ」
「いや、僕の完敗だよ、あのまま接近されて攻撃されてたら僕に成すすべはなかったからね」
突然の敗北宣言に意表をつかれた俺、まだ黄花には残された技があるだろうとふんでいたが·····
「とにかく僕の負けだよ、君の知りたいことってなんなんだい?」
「俺は一年前薊共和国との戦闘でお前に良く似たやつに撃たれて殺されている。」
みなが驚いて静まり返る中、少しうつむいた黄花はなにか言いづらそうにこう答えた。
「もしかしたら僕かもしれないし、僕ではないのかもしれない。」
要領を得ない回答に苛立ちを隠せない俺ははっきりしろよと黄花を問い詰める。
「信じてもらえるかわからないけど僕には1年以上前の記憶がないんだ、気がついたらイギリスにいて両親と共に葵連合国にやってきたんだ。」
記憶喪失とはご都合主義だ。
嘘をついているようには見えないし、仕方ないと心でわかっていてもすべてを納得できるわけがない。
生き返ったのだからそれでいいじゃないかと思う者もいるだろうがそれは結果論であり、自分を殺した相手をそう安安と許してあげることはできないのだ。
それにもう一つ俺には許せないことがあった。
「ライフル型の銃にヒマワリの紋、それを持つ者が俺の心臓を貫いた、そして俺の後にいた同学年の生徒も巻き添えで死んだ」
俺の後には当時仲の良かった生徒、榊翔馬という生徒が立っていた。
俺自身で殺したという訳ではないが、自分に力があって相手を倒すことができていればと思うと罪悪感に苛まれる。
「それは涼介のせいじゃないじゃん!」
真白と真黒、京香やクラスのみんなが俺を庇う。
その優しさが正直俺には辛い。
そんな周りが騒がしくなる中黄花は1人泣き崩れていた。
「そんなことがあったなんて·····本当にすまない、僕は記憶が無くなる前なにを···なんでこんな···」
懺悔する黄花が泣きながら土下座しているところにどこかしら聞き覚えのない声が聞こえてくる。