1.ほのぼのとした春
春の風が優しく体を撫で、眠気を誘うような朗らかな陽気が体を包み込む。
「あー帰りてー、てか今何時だっけ?まあいいか」
俺の名は木場涼介。通常の学問を学びつつも、戦術や戦闘訓練を学ぶ学校、葵学園高等学校に通う17歳の高校2年生である
「涼介!また授業サボってこんなとこで寝てる!」
彼女の名は幼馴染の暁真白、いつもなにかと構ってくる世話好きな女の子で、髪飾りに白い髪結びをつけている。
俺たちの通っているこの葵学園では、戦闘に関わる様々な知識を学べる学科が多数存在する。俺が所属する戦闘科では主に2080年に開発された再生の剣という特殊な武具での戦闘を学ぶ学科となっている。
再生の剣は固形状の四角物質でそれぞれ使用する人により武具の形状や性能が変化するという特徴がある。
「いつも大きな声で五月蝿いんだよ、もっとおしとやかにしないとお嫁にいけないぞ」
俺がそう口走った瞬間、彼女は再生の剣を展開させ、弓を引き、俺にめがけて放ってきた。
「りょ!涼介には関係ないじゃん!大体いつもいつも···」
突然俯いて地面と話しかけている真白。彼女の再生の剣の武具は弓である。比較的ポピュラーな武具であり、よく武具として展開されることは多い。
「お前、それ当たったら俺死ぬよ?天国だよ?ビバヘヴンだよ?」
「今のは涼介が悪いの!お嫁がどうたらこうたらって···」
また俯いて地面に語りかける真白。
めんどくさいのでとりあえず謝っておこう。
「すまんすまん!でもよなんで2年になって医療科から戦闘科に来たんだよ?」
真白は1年次には戦闘化ではなく、負傷者の治療等を学ぶ医療科にいたのだ。
「それは···1年前のあの事で涼介が···心配で···」
1年前に俺は一度死にかけている。
正確には死んでいたと言えよう。
この学園は戦闘を学ぶ者達の養成機関でもあるのだが準兵士として各国との戦いにも駆り出される側面もあるのだ。
今も夢に出て来るあの時の光景はきっとあいつがそうさせているのかもしれない―――
俺たちの住む葵連邦国は旧東海地区に属する場所にある。周りを旧関西地区の薊共和国、旧関東地区の桜花帝国の2カ国に挟まれた国である。
近年近隣国関係が悪化を辿りいつ大きな戦いが起きてもおかしくない状況になっている。
一年前には薊共和国との国境付近にて中規模の戦闘が起きたのだった。その戦いにて俺は命を落とした···。
なぜ生き返ったのかはまだ定かではないが再生の剣が絡んでいることは確かである。
「いやー俺のために来てくれたとかお前どんだけ俺のこと好きなんだよ!」
なぜか顔を真っ赤にした彼女にまたも弓を放たれる。
「す!すす好きなわけないじゃん!昔から涼介は危ないことするから監視するために来たんだよ!嘘じゃないもん!てかそろそろ授業戻らないと次実技だよ?!アンドレ来ちゃうよ!」
アンドレとは実技訓練の先生で『大爆発のアンドレ』と呼ばれている。
ちなみに日本人で本名は安藤土連句。葵連邦国の国王である葵玄彩直属の親衛隊、葵四将に数えられる一人であり、戦闘科の主任でもある。
「アンドレの訓練疲れるんだよな!あのアフロいつも手加減しねーじゃん!アフロのくせに毛皮のコートきてるしアフロ犬だぜあれは」
「キーバーくん」
俺は背後から忍び寄る大きな髪の塊の気配を感じた。
これはきっと春のほのぼのとした空気のまやかしだろう。
そう、、信じたい!
「だれがアフロ犬だって?そんな何十年も前に流行ったもの良くしってるねぇ?ぇ?」
「アンっ!アンドっ!安藤先生!なんでこんなとこにいるんですか!」
「実技の訓練が始まってみたら君と暁くんがいないからねー、
探しにきちゃったのねー!もう講習始まってるんだがねー」
最悪のタイミングで見つかってしまった。
アンドレの訓練では謎のルールがあり、ズル休みをしても見つからなければ問題はないのだが見つかってしまうとアンドレ直々の鬼のタイマン訓練が開始される。
「キーバーくーん、わかってるよねー?」
そしてウサギを摘むような形で俺は訓練場に連れていかれたのだった。
あーーー帰りたい···