第四十八話:黒の襲撃
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カストレア学園主催の合宿はつつがなく進行し、一週間が過ぎた。
全日程を二週間としている合宿は後半に差し掛かったため、特別授業は魔術の実技演習のみとなった。
演習の際には適正属性ごとに分かれ、それぞれの属性に教授が一人ついて演習及び訓練を行うことになっている。
「よーし、全員集まったようじゃの。遅刻欠席なし。感心感心」
八日目の朝、合宿参加者全員が守織によってとある講義室に集められていた。
「これから合宿は後半の日程である、終日実技演習となる。各適正属性ごとに分かれ、担当の教授の指示に従うのじゃ」
教壇に立つ守織の隣に教授と思われる大人達がずらりと並ぶ。
守織によれば、その一人一人が各属性魔法を極限まで極めたトップクラスの魔導師だという。
そして守織の指示に従い、参加者達が教授の元へと歩き出す。
アリスは炎属性の教授の元へ。
美玲と紫音は光属性。
日向は闇属性。
敬司は……
「俺はどこに行けばいいんだ?」
自分の適正属性なんて考えたことも無かった敬司は、一人教室の中で右往左往していた。
「ちょいちょい、神田よ」
そんな敬司の服の裾を守織がクイっと引っ張る。
「お主は別じゃよ。私について来るのじゃ」
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他の参加者と分かれ守織に連れられた先は、暁研究所であった。
守織は「暁、起きておるか〜?」とノックもせずに扉を開く。すると、
「大丈夫です会長。流石に起きていますよ」
と、部屋の隅っこの机でパソコンを弄りながら暁が返事をした。
「お主は相変わらず朝が弱いからのぅ。こうした用事もなければ昼まで寝ておるくせに」
そう言いながら部屋に入る守織に敬司も続く。
あらゆる機械や器具でごった返す研究所の中、ポツンと中央に置かれたテーブルに座る。
「神田君はブラックでいいかい?会長は砂糖付きでいいですね」
暁が慣れた手つきでコーヒーをビーカーに淹れて差し出した。
「おい暁、変な薬品などは混ざっておらんだろうな」
「安心してください、ビーカーはちゃんと洗ってますよ」
暁は顔を顰める守織の前にスティックシュガーを五本置き、席に着いた。
「ずずっ……フム、もう一本欲しいかもしれんのぅ。まあ良い、取り敢えず今から敬司の特別演習を行う。今回の演習、というか測定に近いのじゃが、目的は敬司の適正属性をはっきりとさせる事じゃ。先程属性ごとに別れろと言われて困っておったろ?」
「そうですね、自分の適正なんていままで考えたことも無かったので」
敬司は『勇者の冒険』のゲーム上で習得した魔法を使えるのだが、勿論勇者に適正属性なんてものは無い。
「そもそもお主は複数の属性の中級、上級魔法を平然と使えている時点で『異常』なんじゃよ。よってその異常を解明する為に、まずは適正属性から知る事とした訳だ。お主にしても知っておいて損はないはずじゃ」
守織はそう言うと、暁から透明な球体を受け取った。それは占いなんかでよく使われるような、手のひらサイズの水晶球であった。
「守織さん、それは?」
「これは魔水晶と呼ばれるものでな、地球上の限られた魔脈から採取される貴重な鉱石じゃ」
すると、守織が抱えた魔水晶が白い光を伴って輝き始めた。
「この様に魔法が使える者がこの水晶に触れると、適正属性ごとに異なる色で光る様になる。無属性魔法しか使えんのでな、白色じゃ。そして、そこの暁が持つと……」
守織が暁に魔水晶を手渡す。
魔水晶の光の色が白から黄色に変わった。
「私の適正属性は雷だ。だからそれを示す黄色で光り輝くという訳だ」
暁はそう言うと魔水晶を机の上に置く。
魔水晶の輝きは次第に失われ、元の透明な球体となった。
「それでは神田君、その魔水晶を持ってみるといい。心を落ち着けて、その水晶に意識を集中させるんだ」
「わかりました」
敬司は魔水晶を両手で持ち上げる。
(意識を集中って言われてもな。とりあえず水晶に魔力を込めるイメージでいいのかな?)
しばらくすると魔水晶が輝き始め、赤色で光り始めた。
「赤色?これって……」
「赤色は炎属性の証じゃ。しかしこれでは説明が……っと待て、色が変わり始めておるぞ」
魔水晶は赤色から青色、黄色、緑色と、まるで全ての属性を表すかの様に色を変えていく。
「これは、一体どう言う事なのだ……?」
「この様な現象は見た事がないのじゃ……」
暁と守織が、驚きを隠せずに声を漏らす。
そして敬司の持つ水晶は、現存する八属性全ての色を表し、無属性の白を最後に輝きを失った。
「え、ええと、結局俺の適正属性は何になるんですか?」
「結果だけから考えるのであれば『全属性適正』が妥当じゃろうな。しかし、今まで魔水晶の色が二色以上を同時に示した例は過去にない。適正属性さえ測定してしまえば何か分かるかもと考えたのじゃが、これではますます迷宮入りではないか。全属性適正など例外にも限度があるのじゃ……」
そう言ってしばらく頭を抱えた守織は、
「仕方あるまい。では次は実技測定としよう。今現在神田が使用できる魔法を全て見せて欲しい。そこから手がかりを探すとしよう。実技場への移動となるが大丈夫か?」
「はい、構いません」
「よし、それでは神田は一旦部屋に戻り、動きやすい服装に着替えてくると良い。私と暁は先に向かっている」
そうして敬司は守織と暁と別れ、自室へと向かった。
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自室に入り何を着て行こうかと悩んでいると、「ヴヴヴ、ヴヴヴ」とバイブレーション音が聞こえてきた。
「ん、スマホの通知か?」
ポケットからスマホを取り出し確認してみるが、通知などは来ていなかった。
しかしバイブレーション音は途切れる事なく鳴り続けている。
部屋を見渡すと、昨日プレイした後机の上に置いていたPSDが僅かに震えていた。
どうやら音源はPSDの様だ。
(PSDにバイブレーション機能なんてあったか?)
震えるPSDを手に取ると、電源ボタンに手をかける前に『ピロン♫』と勝手に電源が入り、『勇者の冒険』のタイトル画面に切り替わる。
敬司にはそれがPSDに『早くゲームを起動しろ』と催促されている様に思えた。
敬司は前回魔法都市カストレアでセーブしたデータを選択する。
ゲームは何事もなく、カストレア特有の西洋風の町並みから始まる。
「………………は?何これ」
筈だった。
確かに開始した場所はカストレアで間違いない。
しかしその西洋風の町並みは、建物は破壊され、そこら中に人が倒れ、至る所から火の手が上がり、まるでそこで戦争でもあったかの様に荒れ果てていた。
勇者の冒険はドット絵のゲームであるのだが、それでもその悲惨さが手に取るように分かる描写であった。
(町がめちゃくちゃにされてるんだけど……いつの間にこんなイベント始まったんだ?)
どう考えても、魔法都市カストレアが壊滅する様なイベントは無かったはずである。
敬司は守織との約束も忘れ、勇者を操作して近くに倒れていた老人に近づいて話しかける。
『お、おお、まだ生きている者がおったのか。悪い事は言わん、今すぐこの街から逃げるのじゃ。この街はもう、終わりじゃ……』
会話が終了する。
(この街は終わり?どう言う事だ?)
もう一度話しかける。
『…………』
しかし二度目以降は何度やっても無言が返ってくるだけであった。
(これって、死んだってことか?気味が悪いイベントだな……)
敬司はPSDの電源を切り、実技場へ向かう準備を再開しようとした。
その瞬間、敬司の視界全てが一気に光で埋め尽くされる。
そして鼓膜を破らんばかりの爆発音。
大気は震え、部屋の窓ガラスが割れる。
凄まじい衝撃に耐えられなかった敬司の体は後ろに吹き飛び、入り口を突き破って廊下に放り出された。
「ぐあぁっ!!!」
敬司は廊下を転がり、勢いそのまま壁に衝突する。
(何が、起きた………!?)
立ち上がろうとするも、光で目を潰されたのと、爆音によるひどい耳鳴りのせいでうまく動けない。
『ジリリリリリ!!!ジリリリリリ!!』
合宿場全体に警報音が鳴り響く。
『緊急警報発令!緊急警報発令!何者かが、合宿場の広範囲結界を突破し侵入!至急、教授その他生徒も含め、有事に備え臨戦態勢を取り、実技場へ集合してください!繰り返します!何者かが、合宿場の広範囲結界を突破し……』
廊下のスピーカーから、酷く焦った様子の女性のアナウンスが響き渡る。
「結界を突破?どう言うことだよ……」
敬司は意識が朦朧となりながらも、とにかく宿泊棟を出ようと足を動かす。
幸い敬司の部屋は107号室で一階だったため、すぐに宿泊棟の出口にたどり着いた。
(一体なんなんだ!状況に追いつけない!とにかく今は美玲やアリス、他の誰でもいい!誰かと合流することだけ考えろ!!!)
砂埃が巻き上がって視界が悪い中、敬司は実技場へ向かって歩き出す。
その時砂埃の向こうに、うっすらと人影が見えた。
(誰かいる!)
「おーい!そこに誰かいるんだろ!一体何がどうなっているんだ!?」
敬司は人影に向かって走り出す。
人影は敬司に気がついたのか、進む方向を変えて敬司に近づいてくる。
(気づいてくれた!)
しかし、さらに人影に近づき、砂埃が晴れて見えてきたのは敬司の知っている人では無かった。
そこにいたのは、ブラックタキシードに蝶ネクタイ、シルクハットを身にまとった、古風な格好をした老人であった。
(え、誰だこの人?守織さんが今日の朝紹介した教授の中にもこんな人いなかったぞ?)
そうして敬司が声をかけようか迷っていると、
「フォッフォッフォッ。まさかここへ来て最初に出会ったのが貴方とは、私は実に運がいい」
そう言いながら老人は敬司に近づいてくる。
それに対し敬司は走っていた足を止め、老人と一定の距離を保つ様に後ろへと後ずさっていた。
「はて、どうして後ずさるのかな?誰か人を探していたのではないのかね?」
「……誰だよ、お前」
この時敬司は、目の前の老人に対して説明不能の恐怖を感じていた。
(この老人が誰なのか俺には分からない。だけど何故かこれだけは分かる!こいつには近づいちゃいけない!)
「誰、とはつまり貴方は私の事を知らないのですかな?」
「当たり前だろ!」
「そうですか、でも私は貴方の事を知っておりますよ?」
そう言うと、老人は被っていたシルクハットを脱ぎ、それを体の前に持っていってゆっくりと頭を下げた。
「お迎えに上がりました、神田敬司様。いえ、『我らが父よ』」




