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第一話 初仕事はお届けもの?

初回連投分です。

今回は、いよいよ翔太の匹バイト開始です。


 皆さん、毎日お仕事お疲れ様です。

 私も今日からアルバイト生活開始です。とはいっても、ここは日本ではなさそうです……。

 日本じゃトラ頭のゴツいお兄さんや、猫頭の可愛らしい女の子や耳の尖ったエルフとかいかにもな魔法使いなんてのは存在しません……よね?あ、日本っていうか地球上でもない可能性もあるのか……トホホ……。


「ほら、ボサっとしない!」


 なぜか機嫌の悪いこ柄ないつもコンビニで優しく接してくれていたお姉さん……けど耳とんがってるんだよね……そんなお姉さんから怒鳴られながら、重い荷物をあっちへこっちへと運んでいる。

 ちなみにこのお姉さんはクレア・ウェイン、事務所でこの世界には不釣り合いなPCで何かしている髭面のおっさんがクレアさんの親父さんでグレイグ・ウェインという。名前は欧米式と同じくファミリーネームが後ろに来るので、名前で呼ぶならクレアさんにグレイグのおっさんとなる。しかも、二人ともエルフさんだ。エルフだけあってクレアさんは超がつくほどの美人だし、グレイグのおっさんも髭を剃ったらかなりの美形だろう。けど、グレイグのおっさん、あの髭面の笑顔は物腰の柔らかさを出していて好印象。


「ほら、ショウタ!そんなとこで油売らない!」

「そんなこといっても、これ重いっすよ……」

「男でしょ?それくらいで泣き言言わない!」


 俺が運んでいるのは何かというと、総重量四〇キロはあろうかという甲冑だ。というか、まさかこれ着て戦うなんて言わないよな……


「あら、よくわかってるじゃない!グラディエータークラスの人達はこんなもの平気で着ているわよ?」


 いや、クレアさん……どう考えてもこれ着たら平気なんかじゃないですって……っていうか勝手に人の心読まないでください!


 ガシャン、ガシャン……


 店の外から金属の音がする。その音は大きくなって、店内に入ってきた。

 それは、今俺が運んでいる物と多分同じ甲冑!


「ハイ、ランディ」

「ようクレア。今日も店員やってんだな」

「こんなとこより外に行きたいわよ。体訛っちゃうし、せっかくついてくれた精霊も退屈そうだし……」


 はい?今『精霊』って言いました!?


 俺が耳を疑っていると、クレアさんのうなじあたりから緑色に光る手のひらサイズの小さな女の子が出てきて、クラスさんの肩に乗る。


「ク、クレアさん!?」


 俺はなにか異様なことが目の前で起こってぶったまげていると、クレアさんが「何もしないわよ」と笑いながら、緑色に光る小さな女の子に指で突付くと、その女の子が俺の方へ飛んでくる。彼女が飛んだ後を緑の光が飛行機雲のようにキラキラ光って軌跡を見せる。まるでピーター・○ンに出てくる妖精みたいだな……名前なんつったけな……。

 その緑の女の子は俺の顔のすぐ近くまで来ると、「こんにちわ」とでも言うようにお辞儀をした。俺も釣られてお辞儀をすると、女の子は俺の周りをぐるぐると飛び回る。その表情は何か嬉しそうだ。

 と、彼女の口がなにか言っているように見えた……


『アナタ、この地の人間ではないね。アナタから美味しそうなニオイがいっぱいする。アナタにつく子が羨ましいな……』

「え?」


 突然、直接頭に響いてくる声に驚いた。けど、それが目の前の彼女だとすぐに分かった。そう、なぜか彼女の声だということがすぐに分かった。


「今、話しかけてきたのキミだよね?」


 俺は念のために、目の前を飛び回る彼女に尋ねてみる。彼女は驚いたように止まり、そしてもう一度俺の顔近くに寄ってくる。そして、クレアさんまでもが「え!?」と驚きの声を上げる。


『アナタ、ワタシの声聞こえるの?』

「聞こえるよ。俺は翔太、丸井翔太だよ。キミは?」


 俺は目の前の緑の女の子に話してみる。すると、目の前の緑の女の子、そしてクレアさんまで驚いている。


「ちょ、ちょっとなに人の精霊捕まえて……」

『そう、聞こえるんだね。ワタシの声聞いてくれたの、アナタが初めて!ワタシ嬉しい!』


 と、目の前の彼女は僕の目の前に座ろうとするので、俺は座りやすいようにと手を差し出した。すると、彼女は『アリガトウ』と俺の手に腰掛けて足を投げ出す。


『ワタシは、風の精霊よ。けど、まだ名前がないの』

「え?だってクレアさんと仲良そうに……」

『それはあの子がエルフだから。ワタシはエルフに仕えてきた種族なの。だから、ワタシはあの子と一緒なの。あの子にもアナタみたいにワタシの声が聞こえてくれると嬉しいんだけど、もう少し時間がかかりそうなんだ……』


 名無しの精霊っ子はそう言ってシュンとなるり、涙を拭う仕草をする。それを見たクレアさんは


「ア、アンタ!この子に何したのよ?私の精霊泣かしてくれてんじゃないわよ!」


 と、急に怒り出して弓で俺を狙うしかもかなりの至近距離で。


「ヒッ!ク、クレアさん?ちよ、ちょっと落ち着いて!」


 さっきまでクレアさんと話してた甲冑の人は、「やれやれ……」と手を広げて肩をすくめている。


 イ、イヤ……マジ助けてください……


 その時だった。名無しの精霊っ子がクレアさんへ緑色の光を放った。とたん、クレアさんの指から矢が外れて俺の頬を擦って後ろの壁に刺さる。頬は少し切れて血が少し垂れる。

 光の眩しさが無くなると、頬から血を流し、俺の後ろに刺さった矢をを見たクレアさんは精霊っ子が俺を庇ったことに「くッ!」と唇を噛みしめると店を出ていく。


「あ!クレアさん!」


 呼び止めるが間に合わず、クレアさんの背中を見送るだけになる俺。「あ~あ……」と俺にやっちまったな~みたいな視線を送ってくる先輩店員さんたちとお客さんたち。


 お、俺か?俺が悪いのか……?


「なんじゃ騒がしいの〜……」


 肩と首をコキコキやりながら事務所から出てくるグレイグのおっさん。


「ま~た出ていったのかクレアのやつ……」


 と、周りを見て溜息をつくおっさん。おっさんと同じように溜息をつき、俺の指に腰掛ける名無しの精霊っ子。その精霊っ子に気づいたおっさんが俺にというか精霊っ子に近づく。


「なんじゃ、お前さんショウタに鞍替えしたのか?」

『違うわよ!ショウタがワタシとお話しできるのが嬉しくて、つい……』

「は~そんなことじゃったのか……」

『ウン……』

「……なるほどな~……」


 ウンウンと周りも俺を見て頷いている。

 こ、これってヤッパリ俺が悪いっていう流れ?


「……ん?なぜショウタにコヤツの声が聞こえるんじゃ?」


 と、俺に詰め寄るおっさん。

 周りは「今頃かよ……」と大きな溜息をつく。


「イ、イヤ……やっぱり俺が悪い系?」

『待ってグレイグ!悪いのはショウタじゃないヨ!ワタシがあの子の精霊でありながら、ワタシの声を聞いてくれるショウタと仲良くしたのが悪いの……』


 俺の胸倉を掴みかかりそうな勢いだったおっさんから精霊っ子が庇ってくれる。


「なんじゃ……それならクレアに謝れば済む話じゃろ……」


 おっさんは、ハァ〜ともう一度溜息をつきながらそう言う。しかしおっさんよ……大事なこと忘れてないか?――


『……グレイグの言ってることはその通りだけど、ワタシの声はあの子にはまだ届かない……』


 …………


「あぁ!そぉか!クレアのやつ、まだお前さんの声聞こえんのか!?」


 と驚くおっさん。

 おっさんの鈍さに周りはズコッと盛大に転ける。


「お、おっさん……今気づいたのかよ……」

「いや、スマンスマン。しかし、まさかまだコヤツの声が聞こえんとわの〜アヤツ……ホントに誰に似たんじゃろな〜奴の妹はとうの昔に精霊と話をしておるというに……」

「妹!?」

『うん、クレアの妹、サリー。あの子のは水の精霊なの。もう名前貰ってるんだ。すぐ自慢してくるの。羨ましい……』


 精霊っ子がシュンとする。多分この子はクレアさんの事が大好きなんだろうな。だから声も聞いてほしくもなるし、話をしたくもなる。この子の気持ちはよくわかる。


「じゃ、探しに行こう!」


 俺は精霊っ子にそう言って店を出ようとして、ここが日本じゃないことにようやく気がついた。


「あの……ココってどこでしょうか?……」


 おっさんで転けた店員とお客さんが再度盛大に転ける。

 おっさんは一枚の小さく畳まれた紙を投げて寄越してきた。


「慌てもんだな。ここは王都エーシリアじゃよ。それは地図じゃ。お前さんらが言うとる『日本』のと一緒に考えるでないぞ!アソコは化け物みたいな国じゃからな!」


 おっさんはニカッとしていうが、俺は顔を引きつらせて飛んできた紙を受け取る。


 お、おっさん、何気に俺の国を馬鹿にしてませんか……?


『早く行こうよ、ショウタ!』


 精霊っ子が俺を急かす。


「あーハイハイ……「今日のお前さんの仕事はソヤツをクレアに届けることじゃ」……ハァ?」

『ほら、ショウタ!早く行こう!』


 精霊っ子がさらに俺を急かしてくる。次の瞬間、俺の足が地から離れて……


「わ、わかったから……っておわ!?」


 落ちて顔から突っ伏した。


『ア……』


 精霊っ子は『アハハ……』と笑ってごまかそうとする。


「た、頼むから、急に持ち上げないで……」

『ぜ、善処する……』

「お願いします……」



  ☆☆☆ ☆☆☆



ーーーークレア sideーーーーーーーーーーーー


 私は悔しかった。悔しくて悔しくて、そして逃げ出してしまった。私があの精霊と出会ったのは、私が五〇歳の誕生日を迎えた時だった。私達の種族は五〇歳で一人前とされる風習がある。そして、私達エルフ族には、それぞれ仕える精霊がいる。といってもメイドとかそういうものではなく、家のことで助言をしてくれたり、時には共に戦ってくれたりという存在だ。だから、私にあの風の精霊がついてくれたことはすごく嬉しかった。けれど、あの精霊が何か話しているような気はしていた。けれど、彼女の声は私には届かなかった。

 六年前、妹のサリーが五〇歳になり、精霊がついた。サリーについたのは水の精霊アクアマリン。サリーはすぐに精霊と話ができるようになったらしく、いつでも精霊と一緒。

 目を瞑ればあの子の笑顔がたくさん浮かんでくるのに、声はちっとも……時々寂しそうにしてるし、サリーとアクアマリンを羨ましそうにも見てたな……。


「私、あの子と契約結べないのかな〜……」


 私は立ち止まって空を見上げた。

 その時……


「あの子って、あの子か?」

「あの子は可愛かったな〜」

「お嬢ちゃん、俺らが連れてってあげようか?」


 聞いたことのないしゃがれた声に、「ヒヒヒ……」という気持ち悪い笑い声。

 気がつけば六人の男たちに囲まれていた。目の前の一人はタガーを腰に差し、もう一人は槍を担いでいる。私が逃げようとすると、男たちは逃すまいと私の逃げる方向へ寄せてくる。

 そこで初めてそこが最下層階級住居区。いわゆるスラム街にまで来ていることに気がついた。


「アンタ達に用はないの。通してくれない?」


 私は努めて威圧をかけながら男達に言ってはみるものの、やはり効果はないようだ……。


「嬢ちゃんの方に用はなくても、俺達は嬢ちゃんに用があんのよ」

「あの子に会いに行くんだろ?」

「せっかく俺らが連れてってあげるって言ってんだからよ」

「そうそう!」


 男達は気持ち悪い笑い方をしながら間を詰めてくる。私は弓を出して矢を出そうとするが、矢が出ない。


「おっと!魔導封じの石は稼働中だぜ」

「そうそ!エルフの嬢ちゃんに魔法なんて使われちゃかなわんからな」


 私は舌打ちをした。逃げ道はもうないのかも……。コイツら「あの子」って言ってるけど、私と同じように何人もの女の子を連れ去ってるんでしょうね。このまま連いていって一気に逃げる方が妥当かな。どうやら他のエルフの子も連れ去ってるようだし……。


 そう決めた私は、両手を上げて降参の意を示した。


「おろ?」

「なんだ、もう終わりかい?嬢ちゃん?」


 出っ歯の男が私の顎を指でなぞる。とたん体中に虫唾が走る。


「あの子に会わせてくれるんでしょ?」

「ああ、会わせてやるよ」


 男達が、「ヒヒヒ……」と気持ち悪い笑い方をしながらそう答えた。

 今は信じるしかないか……。まさかいきなり襲っては来ないでしょ。ここでも一応は王宮警備の目がある場所だから。


「じゃあ、こっちにきな、嬢ちゃん」

「ムヒヒヒ……」


 私は男達に前後左右を抑えられながらついていくことにした。



ーーーー翔太 sideーーーーーーーーーーーーー


 俺は名無しの精霊っ子を肩に乗せながらひたすら走っている。もうかれこれ三十分ほど走っているが、全然疲れが出ない。


「なぁ、クレアさんどっちに向かったと思う?」

『気配は下級地区方面からするんだけど……近づいてみないとわからない……』

「そっか……」

『うん……スラム街に入ってないといいんだけど……』

「こっちにもそんなところあるんだ」

『あるっていうか、ショウタたちの世界がスラム街をどういう位置づけで呼んでるのかわからないけど……こっちでは最下級地区をスラム街って呼ぶんだよ。チンピラたちがたくさんいて、ワタシはアソコは嫌い!』

「そっか……じゃあ急がなきゃね!」

『うん!ショウタに私の力貸してあげる!』


 精霊っ子がそう言うと緑の光に包まれる。その光は俺も包み込んでくる。そして、フワッと体が宙に浮かび、空を飛ぶ俺。


「な、ナニナニ?俺、空飛んでる!?」


 俺は勝手に空を飛ぶ自分の体をうまく制御できなくて手足をバタバタさせたりしている。


『ショウタ、ワタシがついてるから大丈夫だよ!ワタシを信じて?』

「う、うん……わかっちゃいるんだけど、空なんて飛んだことないから……」

『じゃあね、ショウタ、ワタシに少しご飯頂戴』

「へ?」


 精霊っ子の唇が、俺のおでこに!?

 これって『デコチュー』ってやつでは?俺まだ彼女もいないのに?年齢=彼女いない歴なヘタレなのに?


『はい、終わり……ってなんか顔赤いけど……大丈夫?』


 意識を取り戻した俺の目の前には、緑の光に包まれた普通の人間の大きさの女の子が!しかも……


 ブーッ!


 鼻血吹いてしまった。だって……ハ、ハダカなんだよ!目の前の女の子が!


『ショウタ?』

「へ?」

『ワタシだよ!』

「ええぇぇぇえええ!?」


 目の前にいたのは、クレアさんとこの精霊っ子。なんと、手のひらサイズのから、人間サイズへと変わっていた。姿は一五、六歳くらい。ちゃんと出るとこ出ててちゃんとくびれもあって……。


 ブーッ!


『え!またァ!?』


 再び鼻血を吹く俺。俺の鼻に手をおいて何やらブツブツ呟く精霊っ子。一瞬鼻が緑の光に包まれたと思ったら、鼻血が止まっていた。


「あ、あれ?鼻血が……」

『止めてあげたよ。それから……ちょっと待ってね……』


 精霊っ子が緑の光に包まれた次の瞬間、ワンピースみたいな服を着ていた。まず、その一瞬の出来事に驚いたけど、マッパでいられる方が辛いのでホッとする俺。


『ショウタが、鼻血出すから服着ちゃったよ。けど、ちょっと動きにくいかな〜……』


 精霊っ子はワンピースのスカートの部分をつまんで前に後ろにとやってみせる。普通に地上でする分には可愛らしい光景だろうけど、ここは空中……それだけにその光景もかなりシュールだ。


「頼むから少し我慢な」


 俺は精霊っ子に念を押す。動きづらいからってまたマッパになられたら俺死ねる。それに、俺まだ彼女もいないのにそんなんで死ぬなんて絶対に嫌だし!


『わかってるって、それにしてもショウタがあんなに鼻血出すとは思わなかった。もしかして女の子の裸見るの初めてだったの?』

「ハ?そ、そそそそそんなはずないじゃないか。アハハハ……」


 なんて直球なこと聞いてくるんだこの子は!おかげでキョドってしまったではないか!


『やっぱり初めてだったんだね』


 う……


「はい、初めてでした」


 はい、諦めました……。すみません、初めてでした!


『素直でよろしい』


 ションボリする俺の頭を笑いながらナデナデしてくる精霊っ子。精霊に慰められる人間っていったい……


『さ、クレア探さなきゃ!』

「おう、そうだった!」


 お、そうだよ!今はこんなとこでコントなんてやってる場合じゃなかったんだよ!

 俺と精霊っ子は、お互いに頷きあう。


『それじゃいっくよ〜』


 精霊っ子の光が一段と強くなって、光の中に俺も包まれる。


「それで、クレアさんのいる場所ってわかったのか?」


 一応聞いてみる俺。精霊っ子は俺を見て大きく頷いて、二時の方向を指差した。


『あっちからクレアの匂いがしてくるの!』

「じゃ、行こう!」


 と走ろうとするが地面を蹴る感触がない。


『浮かんでるから走ってもダメだよショウタ』


 精霊っ子が引きつり笑い浮かべながら言ってくた事で、今空に浮かんでることに気がついて慌てる俺。その俺に『ハァ……』と溜息をつく精霊っ子。


『大丈夫だよ、ショウタ。私を信じてくれればいいから』

「わ、わかった……」


 取り上げず落ち着こうと、深呼吸をする俺。


『じゃ、行くよ!』


 まだ深呼吸を続けてる途中で体が勝手に右方向へ引っ張られ、「ひゅ!?」という声を残して、俺は精霊っ子と一緒に二時の方角へ飛んでいく。


「うわぁぁぁあああ……!」


 そんな叫び声と共に精霊っ子とすっ飛んでいく俺だった……。



ーーーークレア sideーーーーーーーーーーーー


 何度目の角を曲がっただろうか……。まるで土地勘のない場所を、六人の男たちに囲まれつつ歩く私。所々で「ひゅ〜!」という口笛を何度か聞いた。時には頭の先から足の先までナメ回すように見てくるゲスな男もいた。けれど、今まで女の子一人見ていない。さすがにスラム街といっても、女の子一人いないなんていうことはないと思う。たぶん、どこかに連れこまれているのだろうと思う。


 早く助けてあげなきゃ……


 気持ちばかりが焦る。けど、それを男達は知ってか知らずか時々私の胸や腰、お尻あたりを舌なめずりしながら見てくる。本当に気持ちが悪い。魔導封じさえされていなければ、今の私であってもこんな奴らに負けるなんてことないのに……。そう思った時、急に男たちが立ち止まる。私も立ち止まり目の前の建物を見る。

 それは、大昔、勇者が魔王を倒したという神殿の遺跡のひとつだった。しかし、あまりにも広い神殿であるためこんなところにまでその一角がきているのだ。しかし、そこから下級住居区へ渡ることはできないようにシールドがされている。おそらくは王立魔導局の監視もあるのだろう。魔導局局員のパトロールもあると聞く。魔導局局長は、現エルフ族族長が努められている。族長は火、水、土の精霊魔術に加え、光の魔法も使えると聞く。さらに、曾祖母の一番弟子でもあるという。どれだけ曾祖母が凄い人だったのかが伺えるというものだ。

 しかし、こんなところで何をするというのだろうか。むしろ、こういうパトロールが来るようなところはこういう奴らは寄り付かないものなのではないのだろうか。


「しかしよ、このままボスに渡すのも勿体無いよな」


 不意に後ろの男がそう言った。それから何か空気が変わった気がする。六人の男たちが私に詰め寄ってくる。更にその周りにいた男達までもが……。流石にこれだけの数の男達に魔法も使えない、矢も出せない状態でどうやって勝てというのか。私は半分諦めた。


 あの子さえいてくれたら……。


 『後悔先に立たず』だっけ。ジャポネの言葉にそういう言葉があったな。言い得て妙だな……。

 けど、できたら最初は好きな人が良かったな……。


 その時だった。


 ドッカーン!


 大きな音がして、地面が揺れた。



ーーーー翔太 sideーーーーーーーーーーーーー


「クレアさんは?」


 景色がものすごい速さで後方へ流されていく中、俺は精霊っ子に聞いてみる。人間サイズになっている精霊っ子は、ニッと笑って真正面を指差した。


 そこには、ず〜っと手前から続く大きな建造物の隅の端っこ辺り。その大きな建物は、今から約四〇〇年前に魔王が建てた城らしい。そして、その真ん中あたりに穴が開いているのが、クレアさんのひいお祖母さんも活躍したという魔王との戦いで魔王を倒した時にできた穴だという。


 というか、魔王って……。


 やっぱりここは異世界ですか……。まあ半分は覚悟してましたけどね……。


 つか、俺帰れるんだよな?


 こんなことになるんなら、あいつらのいうこと聞いて遊んで暮らしてた方が良かったのかな〜なんて思う。戦争なんて悪だと教えこまれた俺たち日本人にとって、未知もまた未知な話。


 そんなことを考えてたら……


『ゴメンショウタ。もう一回ご飯頂戴。クレアが危ないみたい』

「へ?」


 いう間もなく、俺のオデコにデコチューしてくる精霊っ子。さすがに恥ずかしすぎるんですけど……。しかも男がデコチューされるのってなんの罰ゲームですか!?


『ショウタ、眩しいかもしれないから目を瞑ってて』

「へ?」


 と、再び突然のお申し出をされる精霊っ子。


『いい?撃つよ?』

「あ!ちょいまちっ!」


 慌てて目を瞑って、「OK」と答える。『じゃ打つね』と精霊っ子言った途端、目を瞑っていても眩いほどの閃光が俺たちを包んた気がした。その次の瞬間、


 ドッカーン!


 という大きな音が進んでいる方向から聞こえた。目を開けると、精霊っ子が指差した辺りの建物が少し壊れてる……しかし、例のデッカイ建物はびくともしていない様子。下手したら傷ひとつついてないかも……。


「な、何をした?」

『クレアがピンチなの!だからエアーインパクトを撃ったの!』


 エ、エアーインパクト……もしかして魔法ッスか!?


『もしかしてショウタの世界には魔法とか魔術とかってないの?』


 呆けてる俺に精霊っ子が聞いてくる。俺はただ「うん……」と頷くだけ。しかし、精霊っ子はちょっと自慢気だった。


 イ、イヤ……ちょいやり過ぎなんじゃね?つか、あのデカイ建物だけ無傷って凄すぎないか!?


 俺と精霊っ子がクレアさんとこにもうすぐ着こうという時、崩れもしなかったでかい建物からヤクザ風の男達が出てきた。ボスだと思われる男は、この辺りを牛耳っている王立魔術師の一人だと精霊っ子が教えてくれた。


「そ、それって……」

『ショウタの考えてることで間違いないよ。アイツはこの王国を売った男。今潰しておかないと、いずれこの国が戦争に巻き込まれる』


 戦争という言葉に、戦慄を覚える。

 なにせ、俺達日本人は、「未来永劫戦争を放棄しました」とか、「自衛隊は違憲な存在です。あれは軍隊なのです!」とか、「君が代は戦争を思い出させる歌なので歌ってはいけません!」などと教えこまれてきた。その時から何か違和感は感じていた。そして、その火種となろうとしてる事件が今目の前で起ころうとしている。


 戦争だけはダメだ!――


「なんとかできないか?」


 目は件の男とクレアさんから離さずに精霊っ子に聞いてみる。


『誰に言ってるの?ワタシならあの男たちの魔法なんて甘々だよ!ワタシは精霊なんだから!』


 と、精霊っ子が鼻で笑う。

 そして、


『ちょっと強いやつ使うから、もう少しだけご飯頂戴ね』


 そう言って、再度デコチューされる俺。

 もう、なんか慣れたわ……。


 俺のおでこから離れた精霊っ子に『危ないから後ろに下がってて』と言われて、空中に浮かんでることになれてきた俺は言われたとおり精霊っ子の後ろに下がる。

 俺が下がったことを確認した精霊っ子は、何やら呪文のようなものを唱える。そして、徐々に光が強くなり、俺はその眩しさに目を細める。やがて呪文を終えた精霊っ子は、男達の視線を集めるために空いている左手から小さい空気玉(エアシュート)を打ち込む。

 俺達に気付いた男達の視線か集まり、クレアさんが何かを叫ぶ。精霊っ子がその叫びに頷き……


『ワタシの可愛い主(クレア)を汚そうなんて一〇〇万年早いんだから!喰らいなさい、サンダーボール!』


 右手に作った稲妻を纏った緑色の光玉を男達目がけて投げつける。そしてもう一度何か呟くと、今度はクレアさんが緑の光に包まれた。

 次の瞬間……


 ドッカーン!


 さっきの音よりも更に大きな音がこだまとなって反響し、着弾した辺りは土煙で真っ白になる。

 しばらくして土煙が晴れてくると、着弾した周囲は散々なくらいにボロボロになったものの、やっぱりな旧魔王城ビクともしていないどころか傷ひとつついていない様子。ホント呆れるくらいの強度を持っているようだ。あんなのが日本にあったら地震が来ても平気でいられるだろうな。

 で、男達の方はというと、揃いも揃ってあちこち焦げて倒れており、クレアさんは緑の光に包まれて無事だった。後で聞いたところによると、クレアさんを包んだあの光は結界が具現化して見えたものだという。クレアさんにも光は見えてなかったそうな……はてさて……。



 男達全員が倒れてるのを確認した俺と精霊っ子は、クレアさんの前に降り立った。人間サイズな精霊っ子を目をぱちくりさせて見るクレアの表情がなんとも可愛らしくてつい笑ってしまった。後でかなり土突かれはしたけど、あんなクレアさんが見れただけで約得かな。


『クレア……無事でよかった……』


 精霊っ子が人間サイズでクレアさんに抱きつく。けど、クレアさんには精霊っ子の声は聞こえないので、俺が通訳することにした。


『クレア、ゴメンネ……ワタシ、クレアのこと大好きだよ!』


 精霊っ子の言葉をクレアさんへ伝える。すると、クレアさんの目から大粒の涙が溢れ出す。抱き合う二人か泣き止むのを待って、精霊っ子の言葉をクレアさんへ通訳していく。

 精霊っ子が名前を欲しがっていること。

 精霊っ子はクレアさんたちの文字がわかるから文通もできること。

 いつも自慢ばかりされているサリーのアクアマリンに大好きなクレアさんの自慢をし返してやりたいこと。


 他にもこれまでクレアさんと精霊っ子が出会ってからの事を通訳した。クレアさんは終始泣いていた。


 とりあえず精霊っ子からの言葉を通訳し終えた時、何やらガシャガシャと複数人の足音が近づいでいることに気がついた。その足音は、王国の警備隊のものだった。

 何があったのかを聞かれ、自分達の仲間達が倒れているのを見て、警備隊は俺達に槍を向けてくる。その前に俺とクレアさんが制止するのに笑顔で返して精霊っ子が出ていった。途端、警備隊の面々がたじろぐ。


『ワタシは風の精霊。ここにいるエルフ、クレアの精霊です。この男達はクレアに暴行を働こうとしたため、ワタシが倒しました。』


 精霊っ子がそう言うと、警備隊の一人の男が前に出てくる。


「私は、サースィート王国王都警備隊の隊長をしているスコット・オリバー・ヤークィットだ。精霊だからといって、我々が簡単に信じるとでも思っているのか?」


 隊長というスコットが剣を抜き精霊っ子に突き付ける。


『ワタシたち精霊が嘘はつけないことを承知での剣ですか?』


 精霊っ子はビクともせずにそう言った。隊長の方は少し後ずさる。


『別に殺してなんていません。何なら今すぐに起こして差し上げましょうか?』


 え?起こすって大丈夫なのかよ!?


 と思ったら、緑の光に包まれた。光の壁を叩いてみるものの、叩いている感触はあるけど音も通るし風も通る。そんな俺をクレアさんは頭大丈夫か?みたいに見てくる。そういやクレアさんにはこの光の壁は見えてないんだっけか……。

 

 精霊っ子が右手を上げて人差し指を立てると……男どもの頭が目を覚ましヨロヨロと立ち上がる。

 そして、


「テメエ!女の癖に生意気だ!すぐに服ひんむいて俺の手ゴメにしてやる!」


 と、俺達に剣を振ってくるものの光の壁に跳ね返されるだけ。

 警備隊の隊長はというと、事の真相に呆れて言葉が出ないようだ。それは彼の後ろにいる数十人の隊員たちも同様らしい。

 そんなこととは露知らずか、頭の男は警備隊の隊長に「ちょうどよかった」と助太刀を頼むものの、警備隊は誰一人として動こうとはしない。


『これが真相ですが、まだなにかありますか?』


 精霊っ子の言葉に、隊長は首を横に振り剣を鞘にしまうと、


「いえ、私が判断を誤っておりました。ここは私達が収めますので」


 隊長は精霊っ子に敬礼すると、後ろの隊員達に頭含めた男達を取り押さえにかからせる。

 頭の男はアレコレと騒ぎ立てほざいているようだが、事の真相は彼の行動によって明らかとなっていた為、警備隊の誰一人として彼の言葉に耳を貸す者はいなかった。


 俺達に危険がなくなったからか、光の壁がなくなる。と同時に精霊っ子がクレアさんの方へ隊長を誘う。


「クレア、あなたの精霊はとても誠実なお方のようだ。良い精霊をお持ちで羨ましい限りだ」


 そう言って、クレアと俺にも敬礼をしてから警備隊の面々の方へ向かっていく。どうやら俺達にはもう仕事はなさそうだ。


「ふう、ビックリさせんなよ……」

「ホント、心臓が止まるかと思ったわよ。ソフィー、これからはちゃんと理由を言ってからにしてね」


 と、俺とクレアさんは大きく溜息をついた。


 ん?今なんか「ソフィー」って言わなかったか?


『ソフィーって誰のこと?』


 どうやら精霊っ子も「ソフィー」と聞こえたようだ。

 ソフィーって誰のことなのかクレアさんに聞いてみると、クレアさんは呆れたように、精霊っ子を指差して、


「あなたのことに決まってるでしょ、ソフィー……」


 途端、精霊っ子がクレアさんに飛び上がるように抱きついた。


『ソフィー!私の名前!良い名前!ありがとうクレア!』


 精霊っ子……いや、ソフィーは泣いて喜んでいる。よっぽど嬉しかったんだろうな。


 それから俺達は、嬉しさ有り余るソフィーの力で空を飛んで店まで帰った。その途中、


『ねー、ショウタ!クレアがソフィーって名前くれた!いいでしょー!ソフィーだよー!』


 とクレアに抱きつきーの、俺に自慢しーのと、やんややんやの状態が続いた。


「帰りました〜!」


 元のサイズに戻ったソフィーとクレアを連れて、俺は店の敷居をまたいだ。

 どうやら俺達が帰るまでに王国の近衛隊がこの店に詫入れに訪れたらしく、一体何があったのかの首尾をしつこく聞かれた。仕方ないのですべて包み隠さずに話し、ソフィーの事もすべて話した。


「それで、近衛隊が詫び入れに来たのか!なるほどな~……」


 と一人ウンウン言いながら納得している。しかし……


「でな、ソフィーって誰のことだ?」


 お客さんと店員が盛大に転ける。

 俺はがっくり力が抜け、クレアさんは頭を抱えている。

しかし、そんな中一人だけ嬉しそうにはしゃぎまわるソフィーだった。



 日が落ちて店も閉店。

 結局今日一日何をしたかといえば、クレアさんを探して助け出したくらい。その後は閉店まで、名前を貰って嬉しさのあまり落ち着かないソフィーの相手をさせられて今日の仕事は終わった。

 ソフィーはというと、はしゃぎ疲れて今は宙にふわふわ浮いて気持ち良さそうに眠っている。


「お疲れ様でした〜!」


 俺は事務所にいるグレイグのおっさんに挨拶をする


「おう、おつかれさん!明日も今日と同じ時間でよろしくな」

「は〜い!」


 グレイグのおっさんの指示に返事してくぐってきたドアの前まで来て、今日一日を振り返ってみる。

 一日というか半日だけど、働いてみて、そして日本人としては大丈夫なのか?的なことも経験して、ぶっちゃけヒジョーに疲れた。今日はぐっすり眠れるだろう……と思いきや、ここは異世界なんだよな。しかも精霊もいて魔法なんかもあって獣人もいる……。


 これくぐったら日本だよな?帰れませんでしたなんて、よくあるテンプレなんかにならないよな?


 ゴクリ……と生唾を飲み込んで、ドアを開けた。

 ドアの向こうは、いつもと変わらない午後十時な日本だった。

 フゥ、と溜息をついて家路につく。


 そういやクレアさんが「帰ったらこれ食べて明日も頑張ってきなさいよ!」ってカバンに入れてくれたものがあったけど、何だったんだろ?


 腹も減ってるし、疲れてるし、眠いし……けどカバンの中身は気になる――。

 結局、カバンの中身がどうしても気になる俺は、歩道のど真ん中でカバンを開けてみる。そこには、普通にコンビニで売ってる弁当とお茶と、もう一本何かのドリンク剤が入っていた。


「弁当はいいけど、偏ってるがな……」


 ま~いいかと、カバンを閉じて肩にかけ、家路を急ぐ。腹減ったしな。


 でも、俺って今日異世界行ってきたんだよな……そして、普通に日本に帰ってきたんだよな……。こんなのアイツラに話したところで誰も信じてくれないよな……。


 なんか得した気分と、隠し事してるようで妙な気分とが入り混じって妙な気持ちになる。


 ま、いいや。アイツラも連れて行くことができたら連れて行ってやろう。ゲームではない現実の異世界へ――。


最後まで読んでいただき、有難う御座います。


よろしければ感想なんぞいただけたら嬉しいです。

どうぞ今後共よろしくお願いします。


ソフィー、何気にお気に入りです!

次回はソフィーの出番ももっと作ってあげよう!

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