プロローグ
みなさんはじめまして。
高千穂岬と申します。
拙い文章とご都合主義的なところがありますが、
よろしくお願いいたします。
誤字を発見したので更新しました。(2016/02/18)
「……であるからして………」
コソコソとあちらこちらから小声の私語が飛び交う中、教段に立つ講師はそんな私語を気にする事もなく講議を続けていく。受講する学生の中には寝息を立てながら眠っている者までいる。今おこわれているのは、中世の大航海時代。俺はこの時代が好きだ。何から何まで自分達でやらなければならないが、そこが面白い時代だとも思っているし、アイデア次第で色々とやれそうだからだ。これで面白くないわけがない。
おっと、自己紹介が遅れた。俺は丸井将太。そのまま素直に読んでくれればいい。なぜ俺がこの時代が好きなのか、それはやっぱりファンタジーな世界の雰囲気と似ているからだ。けど、今は何かと自動化ばかりが進み、本当にそれが面白いかというと、実ところ俺はあまりそうではない。そりゃゲ一ムもするからPCはするが、PCはあくまでネットとゲームとレポートだけ。PCで色々できる人にとっては勿体無い使い方かもしれないが、俺には工ク〇ルの関数だけでお手上げの状態なので、これ以上望むのは勘弁してもらいたい……。
キーンコーンカーンコーン……
うちの大学では末だにこの旧式のチャイムだ。何か気が抜けるようだが、小学校から十二年間も慣れ親しんだこのチャイムでないと、何かしっくり来ないところもあったり――けれどやっぱりこのチャイムの方が良いと思う。
――うん、自分でも何言ってるか良くわからん――
今日の全講議が終了し、アパートヘ帰る。
――いつもの時間、いつもの帰り道。そして、いつも立ち寄る「カータル」という変わった名前のコンビ二――
今日の夜飯とちょっとしたお菓子を講入。
――コンビニが中世時代にあったら、歴史はどう変わったんだろう ――
そんな事を考えてしまう俺――ふと入口のドアを振り返った時、バイト募集の張り紙が見えた。
――ちょうどPC新調したかったんだよな……
こんなのも巡り合わせだと思う俺は、もう一度店内へ戻り履歴書(ちょっと多めに)を購入。ついでに店先にあるインスタント証明写真機で写真を撮って帰った。
帰ってからは履歴書作成。余分に買ってて大正解!ラスト一枚を残して、ようやく書き終えた。書き損じたのは合計で七枚。二袋分は全滅。机の周りに散乱した丸められた書き損じのA3用紙が一発OKでないといけない難しさを表しているようだ。中には最後の最後で書き損じたものもある。ぶっちゃけ、あれには腹が立った。けれど、自分でやらかしてしまったものでもあるので、怒りのぶつけ先がない。
「とりあえず書き終えたのだから良しとしよう」
その後、インスタントの証明写真を履歴書のサイズにカットして履歷書についていたシールで貼り付けてようやく終了。時刻は夜八時。流石に今の時間は担当の人はいないだろうという事で明日電話しようと決めてご飯を食べて風呂に入って寝た。
翌日の昼、俺は例のコンビ二へアルバイト面接応募の件で電話した。学生である事、成人である事を告げ、午後三時以降で調整。こういったアポイントも取るのは初めての経験だったが、午後四時からの面接と相成ったので、一先ず人生初のアポ取りは成功したようだ。
大学も終わり、少し予裕があったので一旦アパートに戻って身成りを整のえ、履歴書に押印してある事を確認し、念の為認め印をカバンに入れて出動!
コンビ二までは、五分とかからずに着くので、少しゆっくり目に、何を聞かれても答えられるように頭の中でシミュレートしながら向かう事にした。俺は一年の時に母親を亡くした事で少し後ろ向きになってた時期もあり、一年間休学した。そして復学して間もなく、今度は父親を事故で亡くした為、成人を向かえてすぐに天涯孤独となってしまった。今は、親が残してくれた遺産で大学に行き、生活をしているが、さすがにこのままの状態で社会に出るのは不安だった。PCを新調したいというのがきっかけではあったものの、こうして自分でアポイントも取って面接に向かっているという事が、ようやく俺自身、大人の仲間入りできている証なのかもしれないと思うと、何か感慨深くなってきたりもする。
そうこうしてる間にコンビ二に着いた。昼電話した時に裏から入るように言われたので、店舖裏へ回る。しかし扉が二つある。どっちが正しいのかわからず少し焦ったが、よく見る呼び鈴ボタンがあったのでボタンを押す。時刻は三時五七分。まあ早過ぎず遅過ぎずな時間であろう。しかし、ここが京都ならアウトだという。京都では少し遅れて行くのが礼義らしい。理由は、時間通りに行っても客を向かえる準備ができていないからだという。同じ日本でも早く行っておくべきというところと、京都のように少し遅れていくのが礼義というところとがある事に驚かされるが、ここは京都ではないので遅刻はご法度。
呼び鈴ボタンを押してから少し経って若い女性の声がスピーカーから聞こえたので、アルバイトの面接に来た事を告げると、すぐにドアが開いた。ドアを開けたのは、一五〇センチあるかどうかのちっこくて可愛い女の子といってもいいくらいの女性だった。俺が一八〇センチあるので、約三〇センチくらいの差になるので、目の前の女性をかなり見下ろす形となる。俺は女性にお辞義をして「面接よろしくお願いします」と予めカバンから出しておいた履歷書を差し出した。女性は一瞬面食らっていたが、「はいお預りします」と履歷書を受け取り、少し奥の事務所へ案内してくれた。事務所に入ると、案内してくれた女性がPCに向かっている髭を蓄えた小柄なおっさんに、
「お父さん、面接の人来たよ」
ハ?このおっさんがこの人の親父かよ!
いや、まあ、この人の身長って親父さん譲りだったんだな……。
「おー!来たか!」
あ一、確かに電話でもこんな声だったわ……。
俺は事務所奥の応接間に通され、勧められるがままに上座に座るとすぐにおっさんが下座へ座った。
「よ、よろしくお願いしまッす……」
俺は初の仕事での面接でガチガチになってしまい声が裏返ってしまった。裏でクスクス笑う声がする。たぶんあの人だろう。いきなりやらかしてしまった……。
「お前さん、アルバイトも初めてなんじゃな。お前さんのような奴には久しぶりに会ったぞ」
目の前のおっさんは二ヤ二ヤしてそう言う。案内してくれた女性が、俺とおっさんの前にコーヒーを出してくれた。しかし、そのマグカップは何か竹のようなもので作られているようにも見える。
「毒なんか入っておらんから、まずは飲んで落ちつけ」
力ップをジィッと見ている俺に、おっさんが笑いながらそう言ってくる。つ一か毒って……俺は「いただきます」と断わってか一口飲んでみる。
「うまい……」
俺はお世辞でもなく感じたままの感想を言った。そのとたん、
「よし!合格じゃ!来週から来れるか?」
おっさんは二コニコしてそう言ってきた。
「い、いや面接は?」
「今のが面接じゃ!」
「ハ?亅
イ、イヤ……面接ってコーヒーを一口飲んだだけなんですけど……
しかし、おっさんは「わっはっは」と笑っているだけ……。これ以上何を言っても無理だろうし、とりあえず受かったみたいだし。残っているコーヒーをすべて飲み干すことにした。
俺がコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに戻した時、おっさんが顔を近づけてきた。ビックリして後ろへのけぞる俺。
「ところで、お前さんは大学はいつ卒業なんじゃ?」
「ハ?……えと、来年ですが……」
俺が答えると、「来年か……」と元通りにソファに座り直し、蓄えた顎髭を触りながら何やら考え込むおっさん……。大学卒業時期がどうかしたのだろうか……。もしや休学していることで採用取り消しとか?
と、内心悩みだす俺に、おっさんはとんでもない事を言ってきた。
「お前さん、大学中退してうちに就職する気はないか?」
「ハ?ハァァァアア!?」
「お父さん!?」
俺と一緒に驚く小柄な女性!
このおっさん何考えてんだ?俺に中退してこの店に就職?いや、ありえないだろ……。
「やはり無理か……ワシもそろそろ隠居したいんじゃがな〜」
隠居って……いくつだよおっさん……。
すると、娘だというあの女性が、おっさんの目の前にドンと手をついた。
「お父さん!まだ三〇〇歳だよね。私まだ七〇歳にもなってないし、私がこれからお店やっていくの?」
「ハァ!?まだ三〇〇歳ィイイ!?つか、お姉さん七〇歳?」
「な、悪い?まだ六八歳よ!」
「ハ?……いや、まだって……」
「何よ!文句あんの?……」
お姉さんからは睨まれ、おっさんは「何をそんなに驚いてるんじゃ?」と不思議そうに見てくる。
イヤ、フツー人間で三〇〇歳なんてあり得ないし……もしかして、俺からかわれてる?
「お父さん?私、まだやりたいことたくさんあるの!このままお店継ぐなんてまだ考えてないの!」
「なんじゃ、お前まだバースんとこのギルドに入っておるのか!」
は?ギルド?
あの、ここ日本だよね?……ギルドって何?
俺が困惑してるソバでギャーギャーと親娘喧嘩を始める始める二人。
俺……アルバイトの面接に来ただけなんですが……
☆☆☆ ☆☆☆
翌朝、俺は自分のアパートにいた。服もパジャマだし、洗濯機の中に昨日来ていた服が入っているところを見るにどうやら風呂にも入ったらしい。
ぶっちゃけ、昨日の面接の後、何をどうやって帰ってきたのか、それすら覚えていない。昨日、確かに俺はコンビニアルバイトの面接に行った。そこで採用されたような気もするが、おっさんと小柄な可愛い女性が父娘というところはまだいい。その次に聞いたのが、おっさんが三〇〇歳で、娘が六八歳という事だ。あれは本当のことなんだろうか?
イヤ、俺も多分に漏れることなくラノベは好んで読んだ。特に転生冒険者や召喚ものなんてのは大好物だった。そこでは何百年も生きるエルフとかも存在していたし、魔獣とか魔法とかもあった。
今ハマってるゲームだって魔法ありーの冒険ありーの戦闘ありーのなファンタジーな世界で大航海をやるというゲームだ。始めた時には「コー○イさん怒るんじゃねーのか?」と思ったほどだったが、別に何か問題が起こるとか裁判沙汰になるとかはなかった。ま~そんなんで裁判とかなったら、龍のクエストなゲームや最後の幻想なゲームなんかで裁判だらけになっているはずだし。
それはそれ!
「俺が見聞きしたのって冗談だよな……?採用まで冗談だと困るんだけど……」
とりあえず、新聞をとりに玄関へ行く。玄関戸口にある郵便受けから今朝の朝刊を取り……
カラン……
何かが落ちた音がして振り返ると、一通の封筒があった。その封筒には
『マルイショウタサマ
サイヨウツウチショ』
とすべてカタカナで書かれていた。
「なんじゃこりゃ?」
封筒を裏返してみると、
『ソウゴウショウシャ ウェインコープ ジャポネシテン
エーリシア オウトショウギョウギルドショゾク
〒○○○−△△△△
○✕県△□市◇○町○丁目△番地』
と、書かれている。
確かに、あそこのコンビニはあそこにしかないチェーンでは見ない店だし「カータル」という店名に間違いはないんだが……
「オウトショウギョウギルドショゾク……って、まさか王都商業ギルドってわけじゃねーよな……」
しかも、表には『サイヨウツウチショ』って書いてあるし……で、なんで全部カタカナなんだ?
ま~いいや。開けてみるか……
俺はその場で、朝刊を脇に挟んで封筒を開けてみることにした。中には一枚の普通のコピー用紙にごく普通のゴシック体で、やっぱりカタカナだけで印字されたものと、一本の鍵が入っていた。入っていた紙には……
『マルイショウタ サマ
コノタビハ ヘイシャキュウジンヘゴオウボイタダキアリガトウゴザイマシタ
ケントウイタシマシタケッカ キデンヲサイヨウスルコトニケッテイイタシマシタ
ツキマシテハ6ガツ21ニチゴゴ4ジニドウフウノカギをオモチニナリ ヘイシャジャポネシテンジムショヘオコシクダサイ』
すべてカタカナで書かれてあるため、読みにくいことこの上ない。
日本語に要約して読んでみよう。
『丸井翔太 様
この度は弊社求人へご応募頂き有難う御座いました。
検討致しました結果、貴殿を採用することに決定いたしました。……』
……ふむ、ということは、『合格!』とおっさんが言っていた記憶は間違ってはいないってことか……続きを訳してみるか……
『つきましては六月二一日、午後四時……』
って、今日じゃないか!
続き続き……
『同封した鍵をお持ちになり、弊社ジャポネ支店事務所へお越しください』
「『同封した鍵』ってこの鍵のことだよな……」
ただ、わからないのが『ジャポネ支店』ってところだ。
何か手がかりはないかと封筒をもう一度見てみると、裏の住所が書かれてあるところに『ジャポネシテン』とある。そこにある住所をグー○ル先生に聞いてみる……
「やっぱりあの店だよな……」
グー○ル先生が示す地図からもあの店しかないことがわかった。けど、『王都商業ギルド』って……
「考えてても仕方ない。指定された時間に行ってみますか!」
とりあえず採用されたみたいだから、あとは行ってみてから……と考えを変え、時間までゲームの続きをすることにした。
☆☆☆ ☆☆☆
時刻は三時――。
「そろそろ準備始めるか……」
ゲームをしていたら時間はあっという間だ。結局あれからいつものファンタジーな大航海時代ゲームをやり、俺も含めたいつものメンバー四人が集まった事で久しぶりに軽くクエストなんぞしてみた。昼は五個入りアンパンの残り二つをハムハムと食べ、ストロー刺しのド○ールなカップコーヒーで流し込みながらプレイ続行。なんとかクエストも終え、ボーナスなども貰ってからインターネット無料通話なアプリでPC越しの電話で談笑しながら時間を潰した。
談笑を終え、時計を見たら三時だったというわけだ。いつものメンバーというのは、高校の時からの友人たちだ。大学も違えば社会人となった奴もいる。けど、俺達学生から見れば定期的に収入もある社会人はある意味羨ましいが、その分仕事で夜遅くなる事を考えると、まだ俺達学生の方が羨ましがられる方なのだろう。友人達にアルバイトを始める事を伝えたらかなり驚かれた。
「どうしたんだよ。お前親が残してくれた遺産で一生遊んで暮らせるだろ!?」
社会人となった友人がそう言ってきた。確かに親が残してくれた遺産は物凄い。急だったこともあってかなり相続税で取られていきはしたが、このアパートだって親の遺産の一つだし、月に五万円✕八部屋分の収入はある。そこから維持費を覗いても、半分は手元に残るし、親が持っていた株券と何故か俺名義の株券も合わせて時価総額でかなりの額があり、その配当金も毎月それなりに入っては来るのだ……
「やっぱり自分の趣味に関しては自分で働いたお金で賄いたいのもあって」
と言ったものの――
「「「贅沢だ!」」」
な、なぜだ!――
なんかスッキリしないやり取りはあったものの、とりあえずバイトの時間だし……
「行きますか!」
カタカナだらけの採用通知通り、同封されていた鍵を持ち――
無くしたら事だし、財布に入れていきますか――
確かに鍵が財布に入ったことを確認して、いざ初出勤!
「四時入りだから、閉店までかな」
あのコンビニは実は二四時間営業ではなく、回転は朝の五時、閉店は夜〇時となっている。まるで駅構内のコンビニだな……いや、まだ構内コンビニの方がやってるだろうか……
そんなことを考えながら五分の道のりを歩き、今日からのバイト先であるコンビニへ到着、店舗裏に回る。……そういえば鍵を持参してくれって書いてあったけど、どういう意味なんだろうか。
「とりあえずドアを開けてみて、開いてなかったら鍵を使うか」
昨日開けてもらったドアを開けてみる……鍵がかかっているらしく開かない。
「ま〜考えてみりゃそうだよな……」
こんなところホイホイと鍵開けていたら誰が侵入するかわかったものじゃないし。通知にあった通り、鍵を取り出して鍵穴に差込み……
「あれ?回らない!」
おかしいな……としばし考える。チラと右を見ると、もうひとつドアがある。
「こっちのドアの鍵か!」
鍵を右のドアに差し込んで……
ガチャ……
「あ、開いた」
いや、開かなきゃ鍵じゃねーし!
と、自分に突っ込んでみたが、時間も押している為、ドアを開けてみる。
「おう、ネーチャン!あの盾くれや!」
そこは土壁な場所で、トラ頭のゴツいお兄さんが、猫頭のお姉さんに「盾くれ」なんぞ言っている。
俺は一旦ドアを閉めた。
「あれ?俺コンビニに来たんだよな……?」
一度頭を左右に振り、両頬を両手でパンと叩いて、もう一度ドアを開けてみる。
「オッチャン!俺にポーションくれ!」
今度は犬頭な細マッチョなお兄さんが、トラ頭のおっさんにねだっている。
「し、失礼しました……」
消え入りそうな声でそう言いつつドアを閉めようとしたのだが……
ドアを止められた。
「ホラホラ帰らない!アナタ今日からアルバイトでしょうが!」
声の主は、あの子柄な六八歳のオバア……いや女性だった。
「あ?誰がオバアさんだって?」
「俺、そんなこと言ってない……」
「そんなの顔に書いてるっつの!日本人が寿命短すぎるだけてしょうが!ほら、忙しいんだから、早く準備してきてね!」
青地に赤いラインの入った制服を渡されたと思ったらドアの中へ引っ張り込まれた。
「事務所は右の奥!お客さんお待ちかねだよ!モタモタしてるとそのケツ穴に雷撃突っ込むよ!」
「ハ、ハイィィ!」
俺は慌てて奥の事務所に駆け込む。
事務所には昨日面接(?)してくれた三〇〇歳のおっさんがいた。
「おー、待ってたぞ!今日からよろしくな!」
「べふっ!」
ガハハハと、俺の背中を思い切り叩くおっさん。おかげで俺は目の前の壁に叩きつけられる。
い、痛いです……
バンッッ!
ヨロヨロ起き上がったところに今度はドアが前から降ってきた。目の前が一瞬にして真っ暗になる俺……。
「あ、アナタ!ここで寝てる場合じゃないでしょ!?」
イ、イヤ……お、俺……も、もうダメっす……
最後まで読んでいただきありがとうございます。
てきますれば、感想なんぞいただけましたら幸いで御座います。
なるだけ週一話を最低としてやっていきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!