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第九十四話 不本意な離脱

 プロジェクトチームの一員としての任期を全うできなくなることに、心残りがないと言えば嘘になる。


だが、今の状態ではプロジェクトチームの中で自分がりたいと思うこともできず、与えられた役割も満足に果たせないことは、誰よりも俺自身がよく分かっていた。


それでも、仕事とは関係のない理由で任期を残したままプロジェクトチームから抜けなければならないことに、誤魔化し切れない悔しさも感じていた。




「今回の庶務課への異動命令は、おそらくは新井へのただの脅しだったのではないでしょうか。もし、本気で異動させようと思っていたのなら、樫山専務が事前の根回しをしていないということは考えられないことです。それが分かっていながら、新井だけが割をうというのは、スッキリしない気がします」


佐伯課長が、俺の気持ちを代弁するように不満を口にした。それに対して、ハリス部長が『分かっている』という風に頷き厳しい表情で言葉をつないだ。




「我が社の営業部には、優秀で魅力にあふれる人材が揃っていることは私も理解している。娘を持つ父親なれば、その中の誰かを自分の娘の結婚相手に据えたいと思う気持ちも分からなくはない。しかし、相手がそれを望むならば話は別だが、嫌がる相手に自分の立場を利用してかさに懸かり、無理やりに押し付ける真似は厳に慎むべきだろう。もし、それが原因で仕事に悪影響が生じたり、貴重な逸材が我が社を見限ったりしたならば、どれ程の損失になるか計り知れないこととなる」


「ですが……。今回の件は単純な婿探しという話ではなく、複雑な事情があることは否定できません」


ハリス部長の話に佐伯課長が俺に一度視線を走らせ、言いにくそうにぼやかしながら美咲の子供のことを挙げた。




「どんな事情があろうとも、新井君自身にやましいことが一つもないというのならば、正々堂々と監査委員会へ訴え出ればいい」


「監査委員会、ですか」


佐伯課長の話を受けたハリス部長は、腹の底が読めないような笑みを浮かべて俺を真っ直ぐに見つめ、樫山専務を監査委員会へ訴えることを勧めてきた。




俺は、ハリス部長が自分の上役でもある樫山専務を訴え出ることなど勧めてくるとは夢にも思わず、気が付いた時には聞き返していた。




 監査委員会は四葉環境株式会社の内部組織の一つで、企業としての四葉環境株式会社が法令の遵守を徹底しているか常に監督を行っている他、会計や人事について不正がなかったかどうかの監査も行っていた。


また、それらとは別に、職務に関して発生した社員対社員の個別の問題についても訴えがあったものについては、監査委員会の監査委員が両者から話を聞き取った上で、独自に調査を行い審判を下していた。




下された審判については法的な拘束力はなかったが、社内においては審判の内容に沿った措置が取られていた。


そのため、監査委員会には公平で中立的な立ち位置が求められ、本社に属する部署でありながら独立性を重視して、その部署は本社ビル内にはなく社外のビルのワンフロアを借りて、そこを活動の拠点としていたため一般の社員には馴染みの薄い部署でもあった。


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