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第七十八話 顧問弁護士

「冗談だろ……」


無意識のうちに口から言葉が転がり出ていたことに、耳が自分の声を拾ったことで気が付いた。我に返った俺は、改めて達樹に尋ねた。


「大学を出て一年といったら、まだ二十二、三歳だろ。それで結婚できるとかできないとか、おかしくないか」


「あそこの大学は、お嬢様大学とは別に花嫁学校とも呼ばれているからな。俺たちの常識は通用しないんだろう」




達樹の言葉に、俺は嫌な予感が確信に変わりつつあるのを感じながら、確かめるべきことを口にした。


「それが、樫山専務の娘の結婚相手として、俺が選ばれた理由なのか」


「根底にあることは疑いようもないだろうが、それが全てとも言えない」


「どういうことだ」


達樹の含みのある言い方に引っ掛かりを覚え、俺は問い返した。




「落ち着いて、少し考えれば分かるはずだ。結婚だけが目的なら将来有望そうな連中の中から逆玉に興味のありそうな奴を選べばいいだけの話だろ。嫌がる相手に無理強いするよりも、よほど期限に間に合う可能性が高いぞ」


「問題は、そこだな。なぜ、危険な賭けに出たのか。何か、れ相応の理由があるはずなんだが……」




酒のつまみを口に運んでビールで流し込みなら話す達樹とは対照的に、考えながら話す達雄先生の言葉に、俺の頭の中で『あなたの子よ』と言った美咲の声が甦った。


「子供の父親の可能性がある奴の話は、出なかったのか」




俺の問い掛けに、達樹はビールの入ったグラスに伸ばし掛けていた手を止めて一度俺を見た後、グラスの中のビールを飲み干し口調を改めて話し始めた。


「それなんだが……。結論から言えば、可能性のある奴はいると俺は確信している。だけどな、今の段階ではいるともいないとも言えないんだ」


「なぜ、言えないんだ」


「樫山専務の娘と親しい関係にあった人物として、複数の男の名前は挙がったんだ。だがな、全員が樫山専務の娘が頻繁に通っていたクラブの客で、分かっているのはその店での愛称だけで、素性がはっきりしない」




達樹の話に、俺は過去の自分を思い出す。プライベートで夜の街へ足を伸ばす理由は、殆どが『気晴らし』だった。


気楽に楽しめそうな相手を見繕い、夜のひと時を共に過ごす。そうして、後腐れがないように自分からは相手の素性を聞くこともなく、自分の素性を問われても明かすことはせず、携帯電話の番号やメールのアドレスも伏せたままだった。




梨奈と知り合ってからは、そういうことは一切なかったが、自分がしてきたことをかえりみれば、達樹が聞いてきた相手の素性を知ることは、簡単ではないだろうと容易に想像ができた。


だが、できないこともなかった。




「達樹」


「ん」


「俺の弁護士として、雇われる気はあるか」


「お前が、本気でそれを望むならな」




弁護士ならば、正当な理由があればある程度のことまでは調べられるはずだった。


「それなら、子供の父親が誰か調べてくれ」


「分かった」


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