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第七十七話 生い立ち

「あまり時間が取れなかったから、それほど詳しくは調べられなかったんだが、それでも興味深い話は聞けた」


達樹がそう前置きをして話し始めると、既に話の内容を知っているらしい達雄先生は口を閉じ、黙ってビールを飲んでいた。




「まずは、樫山専務だが、妻との結婚は、形式上は妻が樫山専務に嫁ぐ形で結婚後の姓も樫山専務の姓を選択している。しかし、実際には樫山専務が新居として選んだ賃貸マンションでの生活を妻は拒否して、結婚後も実家に住んでいたらしい。その結果、樫山専務と妻との関係は良好とは言えなかったようだ」


「なぜ、妻はマンションでの生活を拒んだんだ」


初めて聞く話に俺は興味を覚え、疑問を口にした。




「俺も不思議に思ったんだが、どうやら樫山専務の妻は大人になりきれていなかったみたいだな。樫山専務の妻は、結婚した後間もなく妊娠して娘の美咲を産んだんだ。でも、出産して一年くらい経った頃から子供を両親に預けて、一年の半分以上は国外で過ごすようになり、今もそれが続いている」


「それは仕事か何かで、ということか」


「単なる旅行だ」


俺は、まだ小さい子供を置いて旅行三昧の母親の話など聞いたこともなく絶句してしまった。




「しかし、妻とは反対に樫山専務は子供が生まれた後、妻の実家で暮らすようになった。だが、仕事の都合もあって、家を空けることも多かったようだ」


樫山専務が妻の実家で妻の両親と一緒に住んでいることは、俺も噂で聞いて知っていた。仕事が忙しいということもよく分かっていた俺は、黙って達樹の話の続きを待った。




「そんな家庭環境で育った美咲は、高校生の頃にはクラブに出入りするようになり、大学生の時には、クラブ通いに加えてホストクラブにも足を運んでいたようだ」


達樹の話に俺は得心が行った。俺に薬を持った手口にしても、その後の強引に事に及んだ遣り口にしても何も知らない良家のお嬢様にできることとは思えず、美咲の行動には世間ずれしたものを感じていた。




「ところで、お前は樫山専務の娘が籍を置いていたお嬢様大学の因習を知っているか」


「因習」


『因習』とは、古くから続くあまり印象の良くないしきたりなどに使われる言葉だったため、俺は達樹に聞き返した。




「あの大学では、卒業後、一年以内に結婚するか何かの事情で結婚できない場合には、盛大に婚約披露パーティを行う習わしがあるんだそうだ」


「古臭いしきたり。まさしく因習だな」


達樹の説明を受けて達雄先生が補足し、達樹は苦笑しながら話を続けた。




「樫山専務の娘も例に漏れないように、二十歳の誕生日を迎えた後から見合いを繰り返していたんだが、全て『素行に問題がある』という理由で断られていた」


「当然の結果と言えるだろうな」


達雄先生が何の感情も含まず零した言葉に俺は同意して頷き掛け、嫌な予感がして達樹を見ると渋い顔をしてさらに続けた。


「驚いたことに、お嬢様大学では一年以内に結婚も婚約もできないと自分たちとは同格には扱われず、格下の者として遇されるらしい」


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