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第七十六話 束の間の安息

今週もよろしくお願いします。

 あの時、『年内中には片をつけないとな』と言った父に俺は大きく頷いた。


本音を言えば、年内とは言わず今日明日中にも片をつけたかったが、それは難しい相談ということは俺にもよく分かっていた。


それでも、あの後心配して何度か電話を掛けてきてくれた父とは、新年は気持ちを切り替えて新たな道へ進めるようにしないとなと、そのつど話していた。


しかし、現実は今年も残り二日となっても問題が解決する気配もなく、あの時よりも俺が置かれた状況は悪化している。


“こんなことが、いつまで続くのか……”

と思うと、溜息を止めることができなかった。




 達樹の家の前でタクシーを降り、インターホンを押すと達樹が応対に出て達樹の部屋へ案内された。


今夜は達雄先生の仕事が立て込んでいて、手がかないから二人きりだと教えられながら部屋の中に通された。


そこは、子供の頃から慣れ親しんだ場所でもあり、どこか我が家に帰って来たような安心感を覚えホッとして身体から余計な力が抜けた。




 十分な広さのある達樹の部屋はベッドと机を置いてもまだ余裕があり、空いているスペースには二人掛けのソファとその前にテレビがあり、ソファの横にはサイドテーブルが置かれていた。




達樹にソファを勧められて俺が腰を下ろすのを見届け、達樹はサイドテーブルを挟むようにして机のところから肘掛のついた背もたれの高い回転チェアを持って来て座った。


「疲れているみたいだな」


俺の顔を見て達樹が言ったとおり、俺は酷い疲れを感じていた。


今夜は美咲のいないマンション『イリス』の部屋で、久し振りにゆっくり過ごすつもりだった。だが、誰もいないはずの部屋には美咲がいて、その上『梨奈は俺を待っていない』と美咲が言い放った言葉が俺の胸に突き立てられたままになっていた。




「なかなか楽にしてやれなくて、すまない……」


「お前は良くやってくれてる。感謝している」


達樹が辛そうに力なく漏らした謝罪の言葉を、俺は即座に否定した。


実際、達樹は本当に良くしてくれていた。




 父に会って問題が起こっていることを告げた数日後、俺は達樹に呼び出されて達樹の家の和室で達雄先生も加わり三人で向かい合っていた。


定位置となりつつあった前回と同じ席にそれぞれが座り、話し合いの供となっていたビールの入ったグラスを片手に、達樹が俺を呼び出した用件を静かに話し始めた。


「仕事の合間に、樫山専務と娘のことを少し調べてみた」


「本当に、調べてくれたのか」




 前回の話し合いで、樫山専務の夢物語を夢で終わらせるためには、樫山専務と美咲の人となりを知る必要があるという話になり、達樹がそれを請け負ってくれていた。


「馬鹿な夢物語に血道を上げようとしている奴に、興味があったからな」


「それに加えて、法を逆手に取り悪事を働こうとしている者を、法に携わる者として見過ごすわけにはいかないだろう」


達樹の話に続けられた、達雄先生の言葉には確かな怒りが感じられその場に重く響いた。


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