第七話 始まりの時
二人の女性の後姿を見送り、そこで初めて長い時間が過ぎていたことに気が付いた。
社交的な場が苦手な私でも、男女が出会いを求めて集うような所で特定の相手を引き止めておくことは、ルール違反になるのではないかと思い当たった。
そこで、席を立とうと腰を浮かせた時、中沢さんの声が聞こえた。
「これから、ビンゴゲームを始めます。立っている人は、近くの席に着いて下さい」
私は立つタイミングを逃し、そのままビンゴゲームに参加することになった。
ビンゴゲームは、中沢さんと由実さんの息の合った軽快な司会で進められ大いに盛り上がった。
結局、私たち四人は、同じメンバーでビンゴゲームが終わるまで楽しんだ。
ビンゴゲームが終わると同時に、私はデザートを取りに行くという口実で椅子から立ち上がった。
すると、尚哉も一緒に行くと言い出し、困った私が助けを求めて真衣を見ると達樹さんが真衣を誘った。
「俺たちは、飲み物のお代わりでも、取りに行かないか」
「そうね」
真衣が快諾し、置いていかれた私は途方に暮れて、二人がドリンクコーナーへと歩いて行く様子を立ち止まったまま目で追っていた。
そんな私を、尚哉がデザートコーナーへと促した。
“これから、どうしたらいいんだろう……”
と考えながら、目の前に並んでいるデザートを眺めていた私の視界を遮るように、尚哉が自分の名刺を差し出し裏返して見せた。
「日を改めて、近いうちにまた会わないか」
裏返された名刺に、手書きで携帯電話の番号とメールのアドレスが書かれているのを目にし、尚哉の誘いの言葉を耳にした私は、名刺を持っている手をゆっくりと辿り尚哉の顔を見た。
尚哉はとても、とても優しい目をして私を見ていた。
目が合った瞬間
“その瞳に、私だけを映して欲しい”
と思った。
私はデザートコーナーに置かれていた紙ナプキンを手に取り、バッグの中からいつも持ち歩いているペンを取り出して、それに自分の名前と携帯電話の番号とメールのアドレスを書いた。
「私は、事務職なので、名刺を持っていなくて……。えっと、これでも良かったら……」
そう言って、紙ナプキンを両手で持って差し出した。
この時が、尚哉と私の『始まりの時』だった。