第六十九話 告白
キッチンから続くダイニングへ行くと、母がキッチンで忙しそうにしていた。
新年の集まりがあると言っていた父の姿は見当たらず、母が一人で動き回っていた。
私はキッチンに背を向けるようにして置かれているソファに腰掛け、持っていた尚哉のパソコンを目の前にあるローテーブルの上に置いた。
私一人では、どれだけ考えてもどうすればいいのか答えが見つからず、母に全てを打ち明けて相談しようと思い立ち、尚哉のパソコンを持って来たものの、話を聞いた母の反応を想像すると気が重くなり溜息が漏れた。
「なあに。溜息なんて吐いて。恋しい人に会えなくて寂しくなったの」
すぐそばで母の声が聞こえ、驚いて振り向くと両手に一つずつマグカップを持った母が立っていた。
私をからかうような笑みを浮かべて、持っていたマグカップの一つを私に手渡し、隣に座った母が私の顔を覗きこみながら話を続けた。
「いるんでしょ。お付き合いしてる人。梨奈が選んだ人がどんな人か、お母さん、知りたいな」
私は、尚哉のことも一緒に暮らしていることも話していなかった。隠すつもりはなかったのだけれど、話すきっかけがなくて話さないまま今日まで来てしまっていた。
ちょうど尚哉のことを相談しようと思っていた私は、母に促され尚哉とのことを話すことにした。
「新井尚哉さんって言って、四葉環境株式会社の本社に勤めている営業マンで、二年前からお付き合いを始めて、一年半前から一緒に暮らしてる」
「えっ」
「黙っていて、ごめんなさい」
一息に尚哉と一緒に暮らしていることまで話すと、何も知らされていなかった母は、目を見張って私を見ていた。
素直に黙っていたことを謝ると母は表情を引き締め、私をからかう雰囲気を消した。
「それは、結婚を前提にして、一緒に住んでいるということなの」
尚哉とは、これまで結婚について具体的に話したことはなかったけれど、お互いにずっと一緒にいたいと思いその気持ちは伝え合っていた。
「具体的にいつということではないけれど、いずれは……」
そこまで言うと、涙がにじみそうになり唇を噛んだ。
「どうしたの。何か、問題でも起こったの」
硬い表情のまま心配気に問い掛けてくる母に、言葉で説明するのは難しく、私はローテーブルの上に置いていた尚哉のパソコンを開いて起動させ、尚哉から送られたメールを呼び出してパソコンを母の前に移動した。
「これを、見て……」
「見ていいの」
私が頷くと、母はパソコンを自分のひざの上に載せてメールを読み始めた。
眉を寄せてパソコンを操作しながらメールを読み進める母の横顔を見ていると、胸が締め付けられるほどに鼓動が速まり、待っている時間がとても長く感じられた。
『フーッ』と大きく息を吐き出し、メールを読み終えた母が私を見て問い掛けた。
「それで、梨奈はどうしたいの」
私の中で答えの出ない問題を問われ、私は応えることができないまま首を横に振るしかなかった。




