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第六十五話 気うつな朝

この回からは梨奈の視点になります。

 意識の向こう側でかすかにからくり時計のメロディが鳴っていた。その音が少しずつ大きくなり、私の意識を引き上げる。


『パタン』と、からくり時計の小窓が閉まる音が響き目を覚ました。


目を開けた私の視界には、いつもの朝の風景とは違う見慣れたリビングの景色が納まっていた。




見るともなしにぼんやりとその景色を眺めているうちに、いつもとは違う風景が目に入った理由を思い出した。


ソファの上で横になっていた身体を起こそうとして、頭と身体がとても重く感じられ喉が渇きを訴えていた。


無意識のうちに唾液を飲み込んだ途端、喉が鋭い痛みを発した。


「痛っ」


反射的に声を上げ、喉に手を当てる。その時の声が自分のものとは思えない声音だったことに気が付き、鋭い痛みが起きないように用心しながら二、三度声を出して驚いた。




声がかすれて半分以上は空気が漏れているような音で、自分でも何を言っているのかよく聞き取れなかった。


“いったい、どうしてこんなことに……”

と考えて、昨夜の嘔吐で喉を傷付けた上に、部屋の中は暖房が効いているとはいえ、年末の寒い時期にソファで寝入ってしまったことが原因だとすぐに思い当たり、頭や身体よりも心がさらに重くなった。




 重い身体をソファから引きがすようにして起き上がり、時間を確かめると仕事に出掛ける時間まであまり余裕がなかった。


“出掛ける用意をしなきゃ……”

と心の中でつぶやいてみたものの、重い身体は私の言うことを聞いてくれそうもなかった。


それでも、唾液を飲み込むたびに痛みの走る喉に、手当てが必要なことは本能的に分かっていたため、なんとか立ち上がった。


その時、視界の隅に開いたままになっていた尚哉のパソコンが映ったが、私はすぐにそれを視界から追い出した。




 ゆっくりと蜂蜜を入れた牛乳を温めて飲み干した。でも、回復の兆しは見られず、心と身体の重さが増したように感じられ、年末年始のお休みを控えて仕事の量が増え、忙しいのは分かっていたけれど、とても仕事のできる状態ではなかった。




叱られるのを覚悟して会社に電話を入れると、私の上司の安西課長が出た。


「おはようございます。渋谷ですが……」


「渋谷さん。どうしたんだ、その声は。具合が悪いのか」


体調が悪いと私が言う前に安西課長に問われ、『すみません』と応えた私の耳に大きな溜息が聞こえた。


「起きてしまったことを、今更言っても仕方がない。幸いにも明後日からは年末年始の休みに入るし、休みの間に体調を整えて休み明けには万全の体調で出て来なさい」




私の予想とは違った安西課長の言葉で、お正月休み明けまで休めると知りホッとしながらも申し訳なく思い、『ご迷惑をお掛けして、すみません』と電話越しに頭を下げた。


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