第六十三話 真っ赤な筋書き
「今の達樹の話だと、樫山専務は尚哉君が子供の父親かどうか重視していないようにも聞こえたが……」
達雄先生が疑問を口にすると達樹は小さく頷いて、思い当たった答えについて説明を始めた。
「佐伯課長も五分五分と言っていたように、樫山専務の中では尚哉が子供の父親だということについては半信半疑なんだと思う。現に、尚哉は自分の娘との結婚話には見向きもせず、子供の父親は尚哉だと自分の娘が明言してもきっぱりと拒否し続けているんだからな。そんな尚哉の態度から、疑念を持つのは当然のことじゃないか」
達雄先生は頷くだけで返事を返し、達樹はさらに話を続けた。
「そんな尚哉に、子供の父親は自分だと認めさせることは一筋縄ではいかない。だから、もっと簡単に尚哉を子供の父親に仕立てる方法として、入籍させることを思い付いたんだろう」
「そうだとしても、なぜ佐伯課長を巻き込む必要があったんだ。体裁を保てなくなる危険性を失念していたとでも言うのか」
滞ることもなく話し続ける達樹に、達雄先生が自分の疑念を一つ一つ潰すように言葉を紡ぎ出す。
「おそらく、それも計算のうちだったんだ。どうにかして樫山専務の思惑通りに自分の娘と尚哉を入籍させることができたとしても、生まれた子供が尚哉とは無関係だとはっきりすれば、心底惚れている梨奈さんがいる尚哉は即座に離婚の申し入れをするだろう」
達樹が話しながら俺の気持ちを確認するように、俺と目を合わせた。
「必ず、そうする」
俺が断言すると達樹は僅かに笑みを見せ、すぐにまた真顔になり話し出した。
「本来なら、子供が無事に生まれて幸せの絶頂にあるはずの樫山専務の娘が、子供が生まれたばかりで離婚したとなると絶好の噂の種となる。そこで、佐伯課長が尚哉を庇おうとして樫山専務から話を持ち掛けられたことを口にしたら、樫山専務はこう言えばいい」
そこまで言って一度言葉を切った達樹は、人の悪そうな表情をその顔に乗せて続けた。
「尚哉には、元々一緒に住んでいる梨奈さんがいた。だが、樫山専務が娘を紹介したことで尚哉は出世を目論み、樫山専務の娘と親しく付き合うようになった。しかし、現実はそんなに甘いものではないと知った尚哉は、出世を諦めて梨奈さんの下へ戻ったが、その時には樫山専務の娘は尚哉の子供を妊娠していて、産むしかない状況になっていた。そこで、子供に対する責任を取る形で樫山専務の娘と尚哉は入籍したものの、生まれた子供の顔を見ても尚哉は興味が持てず、離婚したいと主張したため問題をこじらせないために離婚を受け入れた。そうしたら、尚哉は何食わぬ顔で梨奈さんの下へ戻った、とな」
達樹の話を聞いているうちに、俺の心臓の鼓動は徐々に速まり、胸が締め付けられて痛みが走った。反論の言葉が頭に浮かんでいたが、声に出すこともできなかった。
「そう言えば、樫山専務の話に疑問を抱く者がいても、尚哉が樫山専務の娘と入籍して離婚し、子供が生まれている現実がある限り、面と向かってそれを問い質すこともしないだろう。それで、でっち上げの真っ赤な嘘は真実として罷り通り、樫山専務とその娘は最小限の傷は負っても体裁は保たれる」
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