第五十七話 援護者
俺は、弁護士でもある達雄先生や達樹に相談し助言をしてもらったことも含めて、料亭『水鏡』での話し合いの後、毎日、美咲から俺を説得するための電話が入っていることまで洗い浚い話した。
「そんなことがあったのか……」
俺の話を時折、相槌を打ちながら聞いていた佐伯課長は、俺が話し終えるとつぶやくように一言だけ言って口を閉ざしてしまった。
佐伯課長の様子から俺の話を信じていない風ではなかったが、佐伯課長には課長としての立場があることは俺にも分かっていた。
何か考えているように黙り込んでいる佐伯課長が次に口を開いた時、どんな言葉が発せられるのかと思うと沈黙が痛かった。
ジョッキの中に残っていた焼酎を口にしながら、佐伯課長がどのような答えを導き出すのかと考えているうちに、ジョッキの中身が空になっていた。
新しいものを注文しようと、座卓の上に置かれていた店員を呼ぶためのベルに手を伸ばそうとした時、それに気が付いた佐伯課長が自分のジョッキの中身を飲み干した。
注文を取りに来た店員に焼酎のお代わりと料理を新たに何品か注文し、焼酎の入った新しいジョッキを受け取った佐伯課長は、喉を鳴らしてそれを飲んだ後、俺をまっすぐに見て話し始めた。
「いろいろ考えてみたんだが、どう考えても簡単に片が付くような問題ではないぞ」
「はい」
樫山専務が、佐伯課長に話を持って行ったと知れされた時から、美咲が子供を産まない選択をする可能性は低いだろうと予測が付いていた俺は、佐伯課長の話に同意してその続きを待った。
「厄介なのは、子供の存在だ。誰の子か分からないということは、裏を返せば新井の子供である可能性もあるということになる」
俺を擁護しようとしているとも受け取れる佐伯課長の話に、俺は佐伯課長の考えが知りたくて話を引き取った。
「樫山専務に言われたように、私を説得しますか」
「何と言って説得するんだ。俺が新井の立場でも、子供を自分の子だとは絶対に認めないぞ」
佐伯課長の言葉に、肩から力が抜けていくのが分かった。しかし、俺のせいで佐伯課長の立場に障りが出ては申し訳ないと思い、俺は敢えて言葉を重ねた。
「そんなことを言って、大丈夫なのですか。佐伯課長の立場が悪くなっても、私には責任を取れませんよ」
「まあ、その辺はなんとかなるだろう。俺は支社から本社に移って来た身で、プロジェクトチームとの関わりもなかったし、これまでに樫山専務との絡みもほとんどなかったからな。それに、新井に話してみるとは言ったが、必ず説得すると約束したわけでもない。だがな、新井。俺のことを心配してくれるのは有り難いことだが、そんな余裕はないんじゃないか」
佐伯課長の言うとおりだった。俺がどれ程拒否の言葉を発しても樫山専務と美咲には伝わらず、素通りしていくばかりで状況は悪化の一途を辿っていた。
“なぜ、俺だったんだ”
と自分が選ばれてしまったことに、今更ながら腹立たしさが募った。




