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第四十六話 切れた電話

この回からは梨奈の視点になります。

 目を覚ますとすっかり夜が明け、窓から陽の光が射し込んでいた。


いつの間にか、泣きながら泣き疲れて眠ってしまったようだった。


あんなに泣いたのは、いつ以来だっただろう。まるで溜まりに溜まっていたものを、根こそぎ押し流そうとでもするかのように涙が留まることを忘れて流れ続けた。




 目を開けようとして刺すような痛みを覚え、瞼が熱を持ち上手く開けられなかった。


目の不調の原因をすぐに思い出し、悲しみが瞬く間に胸いっぱいに広がった。涙が、昨日の続きとでもいうように溢れ出しそうになる。それを誤魔化そうとして体を起こすと、頭が鈍い痛みを訴えた。




 私はとにかく目を冷やそうと思い、ふらつきながらも寝室を出てリビングを通り抜け、キッチンから廊下を挟んで向かい側にある洗面所へ行こうとして足を止めた。


昨日の夜、記念日のお祝いをしようと思い、セッティングをしたテーブルが目に入った。


残骸のようになってしまっていたテーブルの上の有様ありさまが、尚哉は帰って来てくれなかったのだと物語っていた。


その事実が私の胸をえぐり、また涙がにじんでくる。




私は目にしている光景に耐えられなくなり、慌ててキッチンを片付け始めた。


ゴミ袋をマンションの裏手にあるごみの集積場所へ持って行き、部屋へ戻ってくるとどっと疲れが出た。




 私は今日、帰って来た尚哉とじっくり話し合いたくて、会社から休みをもらっていた。




尚哉は、お付き合いを始めた時から暇を見つけては一日に何通ものメールを送ってくれていた。それは、一緒に暮らし始めてからも変わることなく、恋人同士になって二年が過ぎようとしていた、尚哉が帰らなくなった日まで続いていた。


そんな尚哉だったから、これまでに無断で外泊したことなど一度もなく、私の中から『無断外泊』という言葉自体、抜け落ちていたような感じだった。


それが何の連絡もないまま、一日や二日ではなく、もう何日も外泊したままになっている。


そして、私からの連絡は電話もメールもつながらなくなってしまっていた。


何か問題が起こっていることは間違いないと、私は確信していた。だからこそ、帰って来た尚哉とそれがどんな内容であれ、とことん話し合いたかった。


でも、尚哉は帰って来なかった。帰って来ない尚哉とは話し合えない……




寂しかった。これまでにも何日も尚哉に会えなかったことはあったけれど、尚哉がこまめに入れてくれるメールのお蔭で、いつも尚哉を感じることができた。それが、ある日突然、ぷっつりと途絶えてしまい寂しくて堪らなかった。




 疲れた身体を押して携帯電話を手に取り、尚哉の携帯電話の番号を呼び出し通話ボタンに触れた。


電話はつながらず、すぐに切れた。


「もしもし。尚哉。尚哉は私がいなくても平気なの。私は、尚哉に会いたい。会いたくて堪らない……。尚哉。愛してるって言って。そうでないと、私はもう……」


切れた電話に向かって話し掛ける。


私は、これからどうしたらいいのか、分からなくなってしまっていた。


だけど、尚哉からの返事は返ってこない……


「私は、尚哉の帰りを待っていてもいいの。……ねえ、尚哉。待っていてほしいって言って……。お願いだから……、何とか言って……」




切れた電話からは、どんなに呼び掛けても返事はなかった。


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