第三十九話 相談相手
俺はレストランを出た後、目的もなく歩き続けた。持って行き場のない怒りが、俺にそうさせていた。
“万に一つ、美咲の子が美咲の言うとおり、本当に俺の子だったら……”
と思うだけで、はらわたが煮えくり返りそうだった。
子供には何の責任もないことだと頭では分かっていたが
“なぜ俺が、こんな目に遭わなければならないんだ”
と考える毎に、新たな怒りを呼んだ。
しばらく感情のままに歩いていた俺は、不意に美咲の父である樫山専務が美咲の妊娠の事実を知ったらどうなるのか、という思いにとらわれた。
慌てて腕時計に目をやり、時刻を確認すると夜の八時を少し過ぎた頃だった。俺は急いで携帯電話を取り出し、達樹に電話を入れた。
達樹は俺の親しい友人であると同時に、弁護士としてこれまでに複数の依頼を受け、それらを依頼人が納得できる形で問題を解決してきていた。
今後の展開を考えると、法的なことも含め、樫山専務と美咲に隙をつかれ足元を掬われないようにするためにも、俺は達樹の意見を聞いてみたかった。
「達樹か。ちょっと困ったことになりそうなんだ。時間があったら話を聞いてくれないか」
「それなら、久し振りに酒でも飲みながら話さないか。うちへ来いよ」
すぐに電話に出た達樹に相談があると告げると、達樹の自宅へ誘われた。
達樹は父親の弁護士事務所に勤めていることもあって、事務所から車で十分ほどのところにある両親の家で家族と一緒に住んでいた。
俺はちょうど通りかかったタクシーを拾い、達樹の家へ向かった。
達樹の家に着くと達樹が出迎えてくれ、和室に通された。
部屋の中に入ると中央に置かれた座卓の上に酒のつまみと缶ビールが数本、グラスと共に用意され、奥の方に置かれた座椅子に達樹の父である達雄先生が座っていた。
「やあ。尚哉君、久し振りだね。たまには私も混ぜてもらおうと思ってね」
「御無沙汰ばかりで、すみません」
俺が中学二年の時に、俺の両親が郊外に家を建てるまでは、両親と一緒に俺は達樹の家の近くに住んでいた。
達樹と俺は、子供の頃から仲の良い兄弟のように気が合い、お互いの家にも頻繁に出入りし、双方の両親とも面識があり何かと気に掛けてもらっていた。
俺が達雄先生に挨拶を済ませると、達樹は出入り口に近い座椅子に座り、自分の正面の座椅子を俺に勧めた。
席に着き達雄先生から問われる近況などについてひとしきり話した後、俺は席を立とうとした達雄先生を引き止め、同席してくれるように頼んだ。
達雄先生と話しているうちに、達雄先生の考えも聞かせてもらいたいと思い始めていた俺は、戸惑った様子を見せていた達雄先生と達樹にそのことを伝え、意を決して樫山専務や美咲との間にこれまであったことを話し始めた。
順を追って話しているうちに自分の中で情報が整理され、自分の身に起こったことを客観的に捕らえられるようになっていった。
すると、実際にあった出来事であるにも拘わらず突拍子もない話に思え、俺は二人に信じてもらえるか心配になった。
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