第二十三話 それぞれの思惑
梨奈と一緒に暮らし始めて丸一年が過ぎた今年の六月の初旬、ゴルフクラブを新調した樫山専務からゴルフに誘われたことが事の起こりだった。
俺は、貴重な休みが潰れてしまうことを心の中で残念に思いながらも、樫山専務からの誘いを断るわけにもいかず快諾した。
その日、樫山専務が会員になっているゴルフ場で朝からコースを回り、昼の休憩時間にレストハウスで軽い雑談を交わしながら昼食を摂っていると、樫山専務が誰かを見つけたようだった。
「娘の美咲が来ているようだ。ちょうど良い機会だから、君に紹介しよう」
樫山専務は俺の返事を聞かず、席を立ってしまっていた。
“面倒なことに、ならなければいいが……”
『娘を紹介する』と言われたことに、俺の警戒心が瞬時に反応した。
樫山専務の一人娘である樫山美咲は、今年の三月にお嬢様大学として有名な私立の大学を卒業した才媛で、稀に見る美貌の持ち主だと樫山専務は俺にたびたび話して聞かせていた。
最初は単なる世間話として聞き流していた俺だったが、何度も繰り返し言われる樫山専務の言葉に、俺の結婚相手として娘の美咲を推しているのだと気が付いた。
だが、俺は心身ともにどっぷりと梨奈に漬かり溺れていることも自覚していたため、相手が樫山専務の娘でもその気にはなれず、話を掘り下げることもなく相槌だけを打つように心掛け樫山専務の話をかわし続けていた。
そのため、このままでは埒が明かないと考えた樫山専務が強攻策に出たのかと思ったが、美咲は俺と同年齢くらいの男性と一緒にいた。
最初、美咲から少し離れた場所にいた男性に樫山専務は気付いていない様子だったが、男性に目を留めると怪訝な顔をし美咲に向かって一緒にいる男性について聞いた。
「こちらは、誰だね」
「私は、名乗るほどの者ではありません。今日は、お嬢様に頼まれてゴルフのコーチをしていただけですので」
美咲が応える前に男性が口を差し挟み、身元を明かすことを拒もうとしていた。
「お父様。こちらは、暁化成株式会社にお勤めされている、青田克典さんです」
硬い表情のまま応えた青田とは対照的に、美咲は朗らかに青田の言葉を無視して樫山専務に紹介した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今週の投稿はここまでになります。
楽しんでいただけたでしょうか。
来週も予定通り投稿するつもりですので、よろしくお願いします。




