第二百二十六話 不可抗力
淹れたてのコーヒーの香りと湯気が立ち上るコーヒーをコーヒーメーカーからマグカップに注ぎ入れ、マグカップを持ってリビングに置いてあるソファへ移動しながら両親の行った願掛けについて耳を傾けた。
俺にはその類の知識は皆無だったためよく分からなかったが、父と母が足を運んだ場所は病気や怪我によく効くと評判の神社だったらしい。
一通り説明を終えた父が、口調を改めて問い掛けてきた。
「梨奈さんのご両親が、来ているそうだな」
「梨奈の両親なら……」
父に問われた俺は、梨奈が怪我をした日の夜遅く駆け付けて来た梨奈の両親が、マンション『ベルフラワー』の俺たちの部屋へ泊まりながら病院へ詰めていることを話した。
「まだ、お前たちのところへ泊まっているのか」
なぜ父がそんなことを聞くのかと不審に思いながら、今の梨奈の状態を説明し付き添いが必要なのだと伝えた。
「そうか……」
重い溜息と共に言葉を零した父は、そのまま口を噤んでしまった。
「父さん」
父の様子に何かまた問題でも起こったのかと不安が頭の片隅を過ぎり、何かあったのかと言外に匂わせながら父に呼び掛けた。
「梨奈さんのご両親に、時間を取ってくれるように頼んでくれないか」
意を決するように短く息を吐き出した後、父から告げられた用件を聞き、父が梨奈の両親と会おうとしていることを知った。
「梨奈の両親に会うつもりなのか」
俺が梨奈との結婚を望んでいる以上、双方の両親が顔合わせをすることは必要不可欠なことではあったが、それは今ではなくもう少し落ち着いてからの方が良いのではないかと思った俺は、『なぜ、今なのか』と疑問を載せて問い返した。
「父さんたちは、梨奈さんのご両親に詫びなければならないんだ」
「詫びるって、どういうこと」
ソファに座りマグカップを片手に持ちコーヒーを飲みながら父と電話で話していた俺は、父に言われたことに心当たりがなく、口元に運んでいたマグカップを口から離して質した。
「梨奈さんが怪我を負った原因の一端は、父さんたちにある」
一段と重い口調で父から告げられた内容に合点がいかなかった俺は、すぐに否定の言葉を返した。
「父さんたちには、関係のないことだろ」
「あるんだ。お前が専務のお嬢さんと同居しなければならない原因を作ったのは、他ならない父さんたちなのだからな」
「……それとこれとは、別問題だろ」
俺が美咲と同居することになって、両親が気に病んでいたことは嫌というほど分かっていたが、ここまで責任を感じていたのだと知り俺は胸が痛み、慰めの言葉を探したが口から出たのは単に否定するだけの言葉だった。




