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第二百二十五話 願掛け

寝起きでまだぼやけていた頭をはっきりさせようとベッドの上で上体を起こし、軽く頭を振って父に問い掛けた。


「父さん。どうかした」




話しながら今の時間が気になり、外してサイドテーブルの上に置いていた腕時計を手に取り目を遣ると、午後の三時を回ったところだった。




「達雄先生から、連絡をもらったんだ」


父の返事に、梨奈の入院している病院の駐車場で車を走らせる前に達樹へ電話を入れたことを思い出した。


心配してくれている達樹だけではなく、心を砕いてくれている達雄先生や真衣さんにも井川医師から聞いた今後の治療方針を伝えて、少しは安心してもらいたいと思い連絡をしていた。




少しずつ頭がはっきりしてくると、今日は平日の木曜日だということに気が付く。


仕事の休みをもらっていた梨奈の父親や俺とは違い、父は仕事中のはずだった。




「父さんは今、仕事中なんだろ。話していて大丈夫なの」


「休みを取ったんだ」


「どこか、具合でも悪いのか」


正規の休み以外は殆ど仕事を休んだことのない父が休みを取ったと知り、何かと心配をかけていた俺は体調を崩したのかと気になった。




「母さんと一緒に、願掛けに行って来たんだ」


「願掛けって……」


自分にはあまり馴染みのない言葉が父の口から出て、俺は思わず眉を寄せていた。




まだ残る眠気で頭の働きが鈍っていた俺は、眠気を覚まそうとベッドから抜け出してキッチンへと向かい、片手で携帯電話を持ち、もう片方の手でコーヒーを淹れる用意を始めた。




「どれだけ効果があるかは分からないが、母さんとも話し合って少しでも梨奈さんと子供の為になるのならと思ってな」


俺は無意識のうちに息を詰めていた。




『コポ。コポコポ。コポッ』


コーヒーメーカーが立てた音で我に返った俺は、父に問い返した。




「梨奈と俺たちの子供のために、願掛けに行ってくれたのか」


「正直、達雄先生から梨奈さんが怪我をしたと聞かされ、その梨奈さんのお腹の中にはお前の子供がいるのだと知らされた時には、途方に暮れた。だが、だからと言って知らない振りをするわけにもいかないし、母さんにも黙っていられないだろ」


「……」




俺は返す言葉が見つからず、口を閉ざしたまま話の続きを待った。


「母さんに話したら、願掛けに行きたいと言い出したんだ。このまま何もせず、ただじっと座しているだけでは耐えられない。せめて、自分にできることはしたいと言うんで、それもそうかと思ってな」


「ありがとう。父さん」


俺に何も言わず、自分の両親が梨奈と俺たちの子供の無事を祈願してくれていたことを知り、俺は心からの感謝の気持ちを口にした。


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