第二百二十三話 約束
思いを言葉にすると、熱いものが込み上げ目の前が霞んでいく。
尚哉の謝罪の言葉が聞こえた。
尚哉に会えたら言いたいことが山ほどあったはずなのに、すべてがどこかへ消え去り何一つ思い出せなかった。
代わりに頭の中に浮かんだ言葉を紡ぎ出す。
「おかえり……、なさい」
それは、ずっと言いたくても言えなかった言葉。
そして、尚哉が本当にそこにいるのだと実感したくて、自由に動かない右手に力を集めて尚哉に触れた。
すぐに指を絡め、しっかりと握り返された尚哉の手から思いが流れ込む。
『愛している』と言葉でも伝えられ、『私も愛してる』と伝えた。
そして、私は赤ちゃんがいることを告げた。
尚哉に会う前は、赤ちゃんの存在を知った尚哉の反応が怖かった。
でも今は、怖いと思う以上に、子供の存在を尚哉に知ってもらいたいと思う気持ちの方が大きかった。
大事な大事な尚哉の赤ちゃん。
いろいろな事情が頭の中を過ぎっていく。
それでも、尚哉に受け入れてほしくて、願いを込めて言葉を搾り出す。
「梨奈。俺たち結婚しよう」
私はまだ、夢を見ているのかと思った。
“これは、夢の続き……”
「子供は俺たち二人の子供だ。そうだろう」
“やっぱり、夢だったんだ……”
悲しみが押し寄せてきそうになった時、大きな手が頬に当てられた。
その手は誂えたもののようにすっぽりと私の頬を包み込み、今起きていることは現実の出来事なのだと教えてくれる。
そして、さらに尚哉の優しい声が舞い降りる。
「返事は『はい』だろ。それ以外は、、受け付けないぞ」
嬉しかった。
尚哉に会えただけでなく、『いつかは』と願っていた尚哉の妻となる希望まで叶えられるのだと知り、嬉しすぎて涙が溢れる。
流れる涙が言葉を口にすることを妨げて、『はい』と返事をするだけで精一杯だった。
涙で揺れる視界で、尚哉が私の手を持ち上げ口付ける。
もう二度と、離れたくなかった。その思いが口を突いて出る。
「もう……、一人に、しないで……」
一つ言葉にすると時間が巻き戻され、尚哉のいなかった時間が呼び起こされた。
会いたくて会いたくて、どうしようもなく尚哉の温もりが恋しくて、尚哉の声が聞きたくて繋がらない電話に話し掛けた。
「これからは、ずっと一緒にいよう」
尚哉の言葉が、壊れかけた心を包み込む。
『愛している』の言葉と一緒に重ねられた唇に、これからまた幸せな時間を刻めるのだと知る。
これからは、三人で……
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