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第二百二十二話 正夢

この回からは、梨奈の視点になります。

「りな……。りな……」


遠くで、私を呼ぶ声が聞こえる。


どこか懐かしく、耳に馴染む声。




ふわりふわりと意識が浮かんでは消えていく。


それでも、右手から伝わる温もりに、底なしの暗闇に落ちて行くことはなかった。




「梨奈。起きる時間だぞ」


確かに、私の耳がその言葉を捕らえた。


それから、唇に記憶の中にある感触が落ちた。




“尚哉が、そこにいる”


そう認識した次の瞬間、意識が一気に浮上した。


でも、私は目を開けられなかった。




尚哉が帰って来なくなってから、幾度と見た尚哉が帰って来る夢。


“これも、夢だったら……”


目が覚めた後に待っている尚哉のいない現実が、目覚めることを躊躇わせた。




「梨奈。梨奈」


耳元で私の名前を呼ぶ声にいざなわれ、閉ざしていた瞼を持ち上げようとして気が付いた。


身体が動かなかった。


まるで石にでもなってしまったかのように、身動ぎ一つできなかった。




自分がどんな状態になっているのかよく分からず、目を開けようとして瞼さえも今まで経験したことがないほどに重く感じられた。


「梨奈。俺が誰か、分かるか」


自分の身体の異変に気を取られていた私の耳が、尚哉の声を拾う。




真上から聞こえた声に意識を集中すると、会いたくて堪らなかった尚哉の顔が見えた。


夢から覚めたばかりの私には、目に映る尚哉の姿が現実のものかどうか判断が付けられず、たとえ一時の幻であっても消えないでと願いを込めて尚哉の名前を呼んだ。




「……なおや……」


少しでも長くその場にとどめて置けるように、しっかりと尚哉の名前を呼んだはずなのに身体に力が入らず、発した声は弱々しく自分の耳にさえ頼りなく聞こえた。




自分はどうなってしまったのかと、目の前に見える尚哉は自分の思いが作り上げた幻想なのではないかと思考が入り乱れ、よく回らない頭が答えを求めて疑問を口にした。


「……どう、して……」


「帰って来たんだ。もう二度と、どこへも行かない。これからは、ずっと一緒にいる」


尚哉の顔と声で告げられた答えが、私の中で木霊する。




続けて、自分の意思に反して思うように動かない身体が抱き締められ、『愛している』と繰り返される。


尚哉から与えられる温もりと、耳に直接届けられる言葉に目の前にいる尚哉は夢でも幻でもないのだと分かった。




突然、独りぼっちになってしまってから朝も昼も夜も願い続けた思いが噴き出し、言葉となって溢れ出た。


「……会いた……かった……」


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