第二百二十一話 最愛
これまで表に出せなかった梨奈を愛おしく思う感情が、俺の中で瞬く間に膨れ上がり頭の回線がショートしそうになった時、梨奈が話し掛けてきた。
「尚哉。……私……赤ちゃんが、いるの……」
高揚感で浮き足立つ俺に、俺たちの子供がいることを伝えた梨奈の瞳は不安を映して揺れていた。
それを見た俺の頭の中に、真衣さんから託された梨奈の手紙の内容が浮かび上がる。
俺と一緒に子供を育てたいと願うのは、梨奈の我が侭だと言っていた文面を思い出し頭が冷えた。
「梨奈。俺たち結婚しよう」
冷静になった頭が、俺の望みを口にした。
大きく目を見開き驚きを表した梨奈の髪の毛を指先で寄せ、顕になった額に口付けて言葉を紡ぐ。
「子供は、俺たち二人の子供だ。そうだろう」
梨奈の目に、止まっていた涙が溜まっていく。
俺は、梨奈の頬に手の平を当て問い掛けた。
「返事は」
溜まった涙が溢れ出し、梨奈の米神を伝い落ちた。
「返事は『はい』だろ。それ以外は、受け付けないぞ」
ほろほろと涙を流し言葉を口にしない梨奈に、俺は『YES』の返事を促した。
「……はい……」
泣き笑いの表情を浮かべ涙で濡れた瞳を真っ直ぐに俺に向けた梨奈は、短く『はい』と応じた。
だが、次の時にはそれまで以上に涙が溢れ、言葉にできない思いを俺に伝えるように絡めた指先に力が込められた。
俺は指を絡めて繋ぎ合わせた梨奈の手を口元まで持ち上げ、唇を寄せて言葉にならない梨奈の思いを受け止める。
「もう……、一人に、しないで……」
止め処なく涙を流しながら梨奈から紡ぎ出された言葉に俺の胸は鷲掴みにされ、息をするのも苦しいほどに締め付けられた。
梨奈を置いて出てしまった後、一人になった梨奈がどんな気持ちで過ごしていたのかと、その言葉が告げていた。
「ごめん……。ごめん、梨奈。もう二度と、どんなことがあっても離しはしない」
「会いたかったの。尚哉に、会いたくて……、会いたくて……」
『会いたかった』と繰り返す梨奈の唇に唇を重ね、俺は梨奈の苦しかった思いを引き受けようと梨奈の言葉を飲み込んだ。
「これからは、ずっと一緒にいよう」
唇を離し、梨奈の顔を見ながら俺は誓いを立てた。
「はい」
俺の目を、しっかりと見つめ返した梨奈が頷く。
離してしまった唇が空いた距離を拒み、また梨奈の唇と触れ合う。
「愛している」
一度唇を離し、俺は新たな気持ちで梨奈に思いを伝え、さらに深く口付けた。




