第二百二十話 溶け合う思い
今週もよろしくお願いします。
久し振りに聞いた梨奈が俺の名前を呼ぶ声は消え入りそうなか細いものだったが、俺を見つめる瞳には梨奈の意思が感じられた。
梨奈が、どこか遠くへ行かないように重ねていた左手に力を込めて梨奈の右手を握り締め、もう一度声を掛ける。
「梨奈。俺が、分かるんだな」
言葉で応える代わりに、握り締めた梨奈の右手に力が入り握り返された。
まだ本調子には程遠い梨奈から返されたものは細やかなものだったが、そこには確かな梨奈の意思があった。
「……りな……」
熱い塊が喉の奥から迫上がり、目頭に熱を集めて視界が曇り発した声を震わせる。
「……どう、して……」
梨奈の、俺に問い掛ける声が聞こえた。
微かな声でぎこちなく問われた言葉はいかようにも受け取れたが、俺の答えは初めから決まっていた。
「帰って来たんだ。もう二度と、どこへも行かない。これからは、ずっと一緒に居る」
もう二度と梨奈と離れ離れになることはないのだと、これから先はずっと梨奈と一緒に居られるのだと、いの一番に梨奈に伝えたかったことを言葉にした途端、一滴の涙の雫が零れ落ち、我慢の限界を迎えた俺は覆い被さるようにベッドの上に横たわる梨奈を抱き締めた。
「愛している。愛している。愛している……」
梨奈の顔の横に自分の顔を寄せ、離れていた間言えなかった梨奈への思いを言葉にして何度も繰り返す。
「……会いた……、かった……」
俺の思いに応えるように梨奈の紡いだ言葉が、俺の中で響き渡った。
顔を上げて梨奈の顔を見ると、きらきらと輝く透明な涙が瞳を隠し目尻から流れ落ちた。
「黙っていて、ごめん。どうしても……、言えなかったんだ」
目尻から流れる涙を指先で掬い上げ、何も言えないまま家を出てしまったことを詫びた。
梨奈は小さく首を横に振り、俺の欲しかった言葉を口にした。
「おかえり……、なさい」
上手く言葉を紡げず、力を感じられないたどたどしい話し方だったが、俺には『おかえりなさい』と言ってくれた梨奈の言葉をしっかりと聞き取れた。
「ただいま」
「なおや……」
梨奈に受け入れられ、本当に戻って来られたのだと実感していた俺の左腕に、放してしまっていた梨奈の右手が触れた。
腕をずらして梨奈の右手を掴み、指を絡めて握り直す。
「愛している」
愛しい思いが、言葉となって滑り出る。
俺の目を、じっと見つめていた梨奈の唇が言葉を紡ぐ。
殆ど音になっていなかったが、その唇は『私も愛してる』と告げていた。




