第十八話 気晴らし
尚哉を愛しているとはっきり自覚した私は、なかなか会えないこともあってあれこれと考えるようになった。
常に前を向き頑張っている尚哉の隣に立つ自分の姿を想像し、今の自分では足りないのではないかと思い至り、尚哉に対して恥ずかしくない自分でありたいと強く願うようになっていた。
そこで、私は子供の頃から母に仕込まれて、今では一通りできる料理について専門的に学んでみようと思い立ち、それぞれの食材の持つ効能やカロリー計算の方法などを勉強し始めた。
そうすることで、いつか、仕事に追われていつも忙しい尚哉の役に立てるのではないかという密かな期待もあった。
だけど、尚哉に対する思いが深まれば深まるほど、会えない寂しさは募っていった。
それでも、会えないながらも私を大切に思ってくれている尚哉との繋がりを断ち切りたくはなくて、気を紛らわす方法を考えていると記憶の底にあった水泳が思い浮かんだ。
私がまだ小学校に入ったばかりの頃、管理栄養士の資格を持つ母が地元のカルチャースクールの料理教室に講師として勤めるようになり、『大人の付き合い』で私はカルチャースクールの教室の一つであるキッズスイミングスクールに入会させられた。
通ってみると楽しくて、年齢制限ぎりぎりの中学校を卒業するまで通い通した。
そのことを思い出し、尚哉に相談すると尚哉が入会しているスポーツジムを紹介してくれ、私はそこのプールへ通うことにした。
尚哉となかなか思うように会えないことをずっと心配してくれていた真衣にも、スポーツジムに入会して気晴らししようと思っていることを伝えたら、真衣も一緒に入会してくれた。
真衣はその頃、仕事で新規の顧客の開拓もし始めていたけれど、既存の顧客からの評判が良い真衣は順調に成績を伸ばしていた。
それにも拘わらず、仕事で溜まったストレスを発散するためと口にして、尚哉に会えない寂しさを紛らわせようとプールに通い詰めていた私に付き合ってくれていた。
そうして、真衣の協力もあって尚哉の忙しい時期を何とか乗り切った私は、漸く落ち着いて会えるようになった尚哉からのリクエストで手料理を食べてもらうことにした。
約束の日、途中で食材を買い揃え、お昼前に尚哉が一人で住んでいたワンルームマンションを訪ねた私の手を引いて、尚哉は部屋の中に置いてあったカウチに座らせた。
隣に座った尚哉に言葉もなく見つめられると、私はそれだけで胸がいっぱいになってしまった。
どちらからともなく顔を寄せ合った尚哉と私は、お互いに不足していたものを満たそうとするように何度も唇を重ね合わせた。




