第十一話 抜擢
達樹からクリスマスパーティへの誘いを受けた時、俺は仕事が忙しいことを理由に最初は断った。
その当時、俺は仕事に忙殺されていた。
その年の春、プロジェクトチームの一員として抜擢された俺は、通常の業務に加えて、プロジェクトチームのメンバーとしての役割も担っていた。
プロジェクトチームは、既存の取引について多方面から検証し、今後の課題となる点の洗い出しを行い、それらについての対応策を提案することと、競合他社が取り扱いをしている製品の性能および市場の反応と、当社のそれらとを比較検討した情報を提供することの、二つを目的に設立されたものだった。
そして、その目的に沿うように活動を続けていたプロジェクトチームの目的に、俺が入社する二年前、新たに四葉環境株式会社取締役社長に就任した、現在の社長でもある水原社長の意向で若手の育成が付け加えられた。
その結果、プロジェクトチームのメンバーとして五年が経過した者には、それぞれが所属する部署の課長補佐の肩書きが与えられ、次期課長として当期の課長から指導を受けつつ、プロジェクトチームのアドバイザーとして後進の育成が義務付けられた。
さらに、アドバイザーとして二年が経過した者は課長へと昇進し、プロジェクトチームを卒業するシステムとなった。
また、新たにプロジェクトチームの一員となる者は、入社後、同じ部署で三年から五年を過ごした者の中から、その部署の部長により推薦を受けた者が選ばれることとなった。
プロジェクトチームの新メンバーとして、連日、一日も早く一人前となるようにアドバイザーから厳しい指導を受けながら通常の営業活動も行っていた俺は、時間がいくらあっても足りない状況に置かれ精神的に余裕を失っていた。
プロジェクトチームに入る前は恋人と呼べる女性もそれなりにいたが、元々、俺は相手の女性に執着するタイプではなく仕事を優先させていたため長続きせず、いつも女性の方から去っていってしまっていた。
子供の頃からの気の合う悪友ともいうべき達樹は、気を紛らわせる相手もいないまま心の余裕を失くしていた俺を心配して、気分転換に出掛けようとクリスマスパーティに誘っていた。




