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大嫌いな蘇芳くん

作者: 黒月朔

 私は蘇芳くんという男子生徒が嫌いだ。大嫌いだ。理由は彼も私のことが大嫌いだから。

 蘇芳くんというのは私の通う中学校で女子にも男子にも優しくて人気のある男子生徒だ。

 しかし何故か彼は私のことが嫌いらしい。何かにつけ私に向かって「俺木崎さんのこと嫌いなんだ」と言う。彼が私を嫌う理由など知らないし知りたくもない。最初はすごくショックを受けたけれど。

「あっそ、私も蘇芳くんのこと嫌いだから」

 彼が嫌いだと言うから私も彼に嫌いだと言う。すると彼は何故か少しだけ傷ついたような顔をする。

 何故、傷ついて泣きたいのは私の方だというのに。


 初めて蘇芳くんに出会ったのは、この中学校に入学してすぐのことだった。

 中学一年生になりたてで新しい環境に期待と不安で緊張しながら、近場から友人を作っていこうと目論んだ私が挨拶をしようと隣の席を見ると、中々かっこいい男の子がいてこちらを見ていた。

それが蘇芳くんだったのである。思わず見惚れてしまった私を現実に引き戻したのは、彼の衝撃の一言だった。

「俺、あんた嫌い」

 意外とタイプなイケメンの彼の一言に私はショックのあまり目を見開いて硬直していた。

 赤い顔でそっぽを向いて何か怒っているらしい彼の様子に、その時の自分自身に酷く失望したものだ。

(私、何しちゃったんだろう)

 この日を境に何故か私にしか聞こえない音量で「嫌い」と言い続ける彼に最初は何をしてしまったのかとビクビクしていた私だったが、一週間もすると彼に対して苛立ちを覚え始めた。

(私が、一体、何を、したって、いうのよっ!)

 その苛立ちは日に日に増していき、ついには彼のことが嫌いになった。

 それから一年経ちまた一年経ち、今年も蘇芳くんと同じクラスになってしまった。それも隣同士の席だ。

 ため息をつきたい気持ちを抑え、静かに椅子を引いて席に座る。そして、蘇芳くんにまた「嫌い」って言われるんだろうなと思っていた私は、いつまでたっても何も言ってこない蘇芳くんを不思議に思って彼の方を見た。

ばっちり目が合ったかと思えばすぐに逸らされてしまい、真っ赤な彼の耳しか見えなくなってしまった。

思えば彼はいつも私に対して怒っているのではないだろうか。真っ赤な顔で睨みつけられるようなことをした覚えはないのに、何故か彼には嫌われているし。

「蘇芳くんなんて、大嫌い」

 初めて自分から口にした言葉は隣の席の彼にもきちんと届いていたようで、ビクリと肩が揺れたのが分かった。赤く染まっていた耳が、瞬時に色を失っていく。

「だーいっきらい」

 そう言って窓の外に顔を向けてしまった彼女は気付かなかった。蒼い顔をした彼が情けない顔で彼女を見ていたことに。そして彼女は知らなかった。まさか彼が嫌いどころかむしろ正反対の気持ちであったということを。

(何で俺、木崎さんに嫌いなんて言っちゃったんだろ……)

 彼が一目惚れした相手に言うセリフを間違ってしまい、訂正することが出来ずにウジウジと二年間悩んでいることを一目惚れの相手―――木崎さんはまったく知らないのであった。


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