兎は、飛び出した。
1話目は、1000字。2話目は、1話目の後に続く話です。
「「「さようなら」」」
帰りのあいさつを済ますと、私はスクールバックをひったくるように背負って帰路を急ぐ。別に。急ぐ用があるわけではなかった。ただ、なんとなく部活をやめたばかりの私にはこの放課後の空気が息苦しかったのだ。
錆びついた下駄箱から、履き崩した上履きをしまうと、まっさらな運動靴をぽとっと床に投げ落とす。
前は、放課後が楽しみだったのに、最近こんな気持ちになることばかりだった。人差し指を踵にあてながら靴を履き終わると砂埃でじゃりじゃりとするピロティから出る。急がないと、もうすぐ前の部活で一緒だった子たちが出てくる。喧嘩をしたわけでもないのだけど、なんだか気まずかった。だから、後ろから背中をポンと大きな手ではたかれた時、びくっと肩が上がってしまったのだと思う。
「うわっ」
驚いて思わず声をあげてしまった私。自分でも驚くほど大きな声が出ちゃって恥ずかしくい。昇降口のガラスに映る私の耳は、熟したトマトのように赤くなっていた。女子テニス部員を避けていたので、肩をはたいたのが墨のように黒い学ランを着てスポーツバックを肩に下げた男の子、だとしって私は、肩をなでおろした。
「ふゆみん、すごい驚きようだね」
声変わりしたばかりの男の子の声。彼の声は、小さなころから何度も聞いているのに、中学生になって変わってしまった。まだ、ちょっと今の彼の声になれない。
「なんだぁ。ゆうちゃんだったのか。驚いて損したよ。ゆうちゃん、今日は帰り?」
「まぁ、そんなとこ。ふゆみん、この後予定ある?」
「特にないよ。部活やめちゃったから、暇なの」
胸にわずかな痛みが走る。それを気が付かないふりをして、笑って肩をすくめる。
「暇だったらさぁ、ちょっとうちに付き合わない?」
「別にいいよ」
部活のことに何も触れないで、いてくれることが嬉しかった。これ以上、笑って退部したことを言える自信が正直なかった。私の作り笑いも虚勢も幼馴染の彼の前では、剥がれ落ちてしまう。
「それで、どこに付き合うの?」
「海」
「なんで、海?」
「気分?」
疑問形で返されてしまった。私の視線はふと彼の左手に吸い寄せられた。彼が持っているのは、クラリネットの入った黒いケース。
「部活、サボるなんてゆうちゃん、珍しいね」
「先生が出張だから、部活が休みなだけであって、うちは部活やすんでないって」
彼の歩く速さが、ちょっと早くなったのは気のせいだろうか?
おいて行かれそうな気がして怖くなった私は、梅雨どきの空みたいな色の校舎を後にして、あわてて彼の背を追いかけた。
1000字を目安にした学校の課題作品。
テーマは「入る」OR[出る」。建物の描写を入れること。
3000字まで書いていいと言われたのですが、1話目と2話目を一緒にして提出するか、一話目のみにしようか悩んでいます。よかったら感想評価をください。お願いします。