松ばあと聖一の自我崩壊まで!? 1
「お袋――っ!!」
「大変っ、麺が」
『弱っ!!』
驚きでラーメンの麺をノドにつまらせてしまったマツばあに俺の両親と俺が席を立ってどうにかしようと行動に移し始める。
「とりあえず麺を取るんだ!!」
「鼻から!? 口から!?」
『マツばあ! しっかりー!!』
俺達がいそいでどうにかしようとしている頑張っている間に、マツばあはもしかしたら魂が抜けかかっていたかもしれない。いろいろと俺達が試していくうちにマツばぁの顔色が良くなってきたので多分何とかなったんだろうなと思う。そんなこんなで三十分後――
「ふぃー、危うくもう少しで三途の川を渡るところじゃったわ……!!」
どうやらマツばあは臨死体験をしかけていたようだ。俺はこの騒動で中身は老婆なマツばあ相手に、ソファーで休んでいるマツばぁの隣に座って疲れで息を乱していた。
とりあえずこの女の子をマツばあなんだと認めようとは努力したが、その前に俺だけがマツばあのことを幼女に見えているのかと思い、悩んでいた。そんな俺に母親が声をかけてくる。
「ねー、聖一。このコマーシャルの人、お義母さんにそっくりよねぇ!」
「はぁ!? 全然似てないけど!!」
「えぇーっ、似てるわよぅ!!」
このCMはおばあちゃんの味で「バンザーイ、ナガイキ」との曲で孫と祖母が煮物を喜んで食べようとしうコンセプトだ。俺は母親がこの女の子のことを言っていると思ったので、髪型以外あまり似ていないと理解に苦しんだ。しかし、俺の母親が指さしたのは年を召した高齢の役者さんである。
「もはや本人って感じ?」
俺は母親には『そう見えているのか!?』と思い、俺だけが見えているマツばあとのギャップに少し気持ち悪くなった。
気持ち悪い想像にヨダレを垂らしてしまった俺は慌てて手で隠したが、すでにマツばあに見られていた。
「あれまぁ何じゃそんなにこぼして」
そのおかげでまじまじと見つめてしまったのを気づかれなかったのは良かったのだが。
「待っとれ。今拭いてやるから」
マツばあが着物の袖からハンカチかティッシュを用意しようとしている。
「えっ(嬉しい悲鳴)あっ、やっぱりいいです」
嬉しさを押し殺して俺はやんわりと断った。
「えーから! じっとしてなさい!」
「あ……」
幼女にしか見えないマツばあの顔が近い! 俺はドキッと胸が高なる。俺はマツばあに口の周りを拭いてもらいながら残念な気持ちになった。
“ちゃんとばあちゃん特有の臭いをするんだぁ……っ!!”
(マツばあはやはり老婆らしい……)
俺は認めたくなかったが、入れ歯にばあちゃん特有の臭い……だけならまだしも(?)と考えをまとめる。
“アレは……!!”
テレビで観た高齢の役者のようだと考えているとタメ息しか出なかった。
「もうマツばあに夢なんて見れな……」
そんな残念としか思えないことを何とかしようと考えながらも俺の足は自然とマツばぁの元へ向かっていた。
「い……」
マツばあの寝顔を見たらどうでもいい考えは一気に吹っ飛ぶ。
"あれは婆ちゃん!! 婆ちゃんだ!! けど!! カメラどこだっけぇ――っ!?" マジ妖精さんだよ。俺はカメラを探しに走り出していた。
◇
マツばあがウトウトしかけていた時、聖一の両親が持たせていた電話の子機が鳴った。眠そうな声でマツばあが電話に出る。
「はい……マツですじゃ」
『ばあちゃん? オレオレ!』
「せーいち?」
『そう! 俺せーいち! 実は事故で大怪我しちゃ』
電話の主の声に重ねるようにマツばあは飛び起きて心配をした。
「大ケガ!?」
『それでお金が』
「大丈夫なのか!? 痛くないか!?」
そこへカメラを持って聖一がひょっこり帰ってきた。
「マツばあ? 誰と話しているんだ?」
「せーいちとじゃ!! 大変なんじゃ! せーいちが事故で大ケガを……!! せーいちが!! せーいちで!!」
『お金……』
電話の主に騙されて慌てふためいているマツばあは感情移入か混乱のあまり涙を流し続けている。
「せーいちが二人!? はわわわわわ」
聖一の姿を確認して、マツばあは耳の機能が低下しているせいか電話の主の声と本物の聖一の違いがわからず戸惑ってしまっていた。
「聖一は一人ですが!?」
マツばぁの様子がおかしかったので確認する聖一。
「これ絶対詐欺だから」
「……さぎ?」
電話の子機を貸してもらって電源を聖一は切った。マツばあの手を握って聖一は落ち着くように言い聞かせている。
「最近物騒だからむやみに人を信じるなよ」
「うむ……」
「振り込め詐欺とか聞くだろ?」
「うむ」
俺は騙されてしまって落ち込んでいるマツばあの背中を軽く叩いてあげながら説明を続けていた。
「ほら最近幼女誘拐事件だってあったしさ」
「う……」
返事をしかけたマツばあは疑問に思ったことを聞く。
「それはわしには関係なくないか…?」
「そ――――――いう危機感のない子が狙われんの!! わかる!? そもそもマツばあはすごく可愛いと自覚して――――」
「? ?」
マツばあは自分が何故こんな事を聞かされているかわからなかったのが、その異様に熱のこもった説教は夜まで続いた。
◇
とっぷりと夜の時間になって風呂に入り終えた俺はマツばあに声をかける。
「マツばあー、風呂空いたぞー」
呼んでも返事が来なかったので俺は台所で新聞を読んでいたマツばあの近くで声をかけ直した。
「マツばあってば。聞いてる?」
新聞から目を離し、顔を聖一の方へ向けて、そうび老眼鏡をかけたマツばあが今気づいたかのように尋ねる。
「おぉ何じゃせーいち出てたのか」
何だか眼鏡姿のマツばあが可愛すぎて俺は自分の携帯のカメラ機能を連写しまくってしまっている。
「マツばっ、メガっメガネっ娘ばあ!!」
「そんなに撮る程眼鏡が珍しいのか!?」
聖一があまりにも写真を撮るのでマツばあはビックリしてしまっていた。
どうでしたでしょうか。
楽しんでもらえたのなら幸いです^^
予約投稿の方と同じ時間(20時)とかもったいなかったΣ 手遅れ