町民の婚礼(三)
「ごめんください」
若い娘にしては低いもののよく通る声で告げると、真っ白なナプキンに小さな頭を押し隠し、洗いざらした水色の服にほっそりした身を包んだマルタが入ってきた。腕にはやはり洗いざらして枯葉色に褪せた布を覆い被せた籠を提げている。
神父と花婿はそれぞれの位置から無言でその姿に見入った。
「ごめんください……ペーテル!」
姉娘より一足遅れて家に足を踏み入れたマリアは、薄青の目をパッと輝かせた。
「マリア」
乳飲み子を負ってテーブルの末席に腰を下ろした少年は、湯気立つスープ皿に入れたスプーンの手を止める。
「来てたのね」
笑顔で少年に近づいてこうとする妹のか細い茜色のブラウスの腕を、マルタが素早く捕らえた。
「ご挨拶が先よ」
姉娘の花弁じみた淡い紅色の唇は微笑を形作っていたが、妹から少年に移動する眼差しは幼い二人の笑顔を吹き消した。
「いらっしゃい」
花嫁の父は姉妹に向かって大きなドングリ眼を細めると、座していた椅子の脇に置いた杖を手に立ち上がった。
「父ちゃん」
エルザがつと不安げな顔つきになって呼び掛ける。
「大丈夫さ」
父親は杖を持たない方の手を大きく振って二重顎を震わせて笑った。
「卒中ったって、まだ両足駄目になったわけじゃない」
言葉とは裏腹に、杖の音高く不自由な片足を引き摺って進み出る義父にヨセフが付き添う。
「二人とも、よく来たね」
花嫁の父の丸い顔いっぱいに浮かんだ笑いに釣り込まれるように、相対するマルタとマリアの強張った面持ちもふと和らいだ。
「おめでとうございます」
姉妹は声を揃えて告げる。
「おめでとう、ヨセフ」
マルタが偽りなく微笑んだ顔を向けると、ヨセフはまるで咎められたように俯いた。
「ありがとう」