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道筋  作者:
1/3

俺様




ふと思い出した。



まだ父が生きていた頃の話なのだが、そのとき俺はほぼ一方的に怒鳴られていた。


いつも通りの憂さ晴らしに+αで性別のことやらなんやらを言われていた。


取り合えず仏頂面で聞き流していたのだが、父の最後の言葉に何故か反応してしまった。



「お前何様だよ!!」



何様? これは答えるべきか?

しかし何々様じゃ変だし……


などと考えはじめて二秒ほどで口を開いた。



「俺様」





次の瞬間音が消えた。



大袈裟と言われるかもしれないのだが、消えたと思うくらい急に周りが静まり返ったのだ。


父はもちろん、関心の無さそうにそっぽを向いていた母までもが唖然と俺を見ていた。





「このっ」


意表を突かれたためか父は言葉少なに突然殴ってきた。



「お前なんか出ていきやがれ!!」



まあ殴られてやったんだからチャラだろとその場に居座ることを決めたが、いきり立った父はまだ拳を握りしめていた。


「あー…、寝る」


どう切り抜けるか考えたが、いい案が浮かばなかったために寝ることにした。



父が口を開く前にさっさと寝室へ逃げ込む。


口内を舌で探ると出血はさほどでもなく、歯も無事であることを確認する。


しかし、頬の痺れ具合から手で触れるのはよそうと思い、鏡を覗く





「あらま」



頬にできた擦り傷に少し驚くがすぐに納得する。


今日は指輪をつけていたようだ。


ごついのじゃなくてよかった なんて思いながら横になる。



頭痛は殴られた衝撃によるものだろうが、何回経験しても好きにはなれない。


好きになったらなったで複雑なのだが…



ああでも、今日は久しぶりに仕事休みなのかあの人


と今更ながら理解し、いつも通り昼寝でもしてくれてりゃよかったのにと思った。



今頃リビングで母は父を宥めているのだろうか

それともやはり父には無関心なままテレビを見ているのだろうか。


追いかけて来なかったことを喜びながらも弟たちに火の粉が降りかからないようにと今後の対処法を考えてみる。


考えはじめはしたものの、大したものは浮かばず、瞼を下ろす。



寝ると宣言したのだから少しくらい寝たっていいだろう。


父の声も母の声もしない

聞こえるのは木々のざわめきと鳥のさえずりだけ。


空気の入れ換えのために開けていた窓から入ってくる静かな音に、穏やかな気持ちになり眠気を誘う。



考えるのも痛がるのもあとでいい


今は誘われるまま、寝てしまおう。


目を覚ましたらまた悩もう。


その方がいい考えが浮かぶかもしれない。


自分に言い訳をしながら、いつしか意識は暗闇に沈んでいった。



この後すぐ姉に蹴り起こされるという結末を知らない俺は、完全に意識を手放し、眠りに落ちた。





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